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     VOL.94/ 2 0 1 3.1 .31 (THU) 発行

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「東北新幹線新青森駅周辺の開発を制限した青森市のまちづくり」

 青森市は、2010年12月の東北新幹線新青森駅開業という大きなインパク
トに備え、明確なコンセプトの下、まちづくりを進めてきた。その成果は
東日本大震災という特殊要因のためまだ十分な評価はできず、またそのコ
ンセプトの副作用ともとられかねないような厳しい現実も生じているもの
の、方向性そのものは非常に示唆に富むものである。福井県内の各市は、
まさに今、北陸新幹線の延伸に備えてまちづくりを進めようとしていると
ころであるが、青森の手法は先行する事例として参考になる部分も多い。
以下に、そのポイントであるコンパクトシティに関連する事項について記
したい。
 青森市は1999年策定の都市マスタープランにて、全国で初めてコンパク
トシティという概念を用い、市街地の拡散抑制と中心部の再生を目指した
まちづくりの方向性を提示した。この考え方に沿えば、新幹線駅は中心市
街地に近接する青森駅に併設するのが望ましいが、開業した新青森駅は、
青森駅からJR奥羽本線でひと駅、車では約5kmの距離にある。これは、青函
トンネルへとつなげるルート上の問題等のためとされている。青森市のよ
うに、都道府県庁所在地において開通前の主な拠点駅に新幹線駅が併設さ
れなかったケースは、政令指定都市を除けばかなり特殊である(1)。
 このような、コンパクトシティの根幹を揺るがしかねない交通結節点の
変化に対し、青森市は極めてストレートな手法でその精神を貫いた。それ
は、新たな拠点施設は引き続き青森駅周辺へ集積させること、そして、新
青森駅周辺には青森駅周辺と競合するような機能をもたせず、ゲートウェ
イとしての機能に特化させるという2点に集約される。
 青森駅周辺には、2010年から2011年にかけて、青森市がねぶたの常設展
示館である「ワ・ラッセ」を、JR東日本が飲食物販施設である「A-FACTORY」
をそれぞれ整備した。これらは、1980年代後半から1990年にかけて整備さ
れた「青森県観光物産館アスパム」、「青函連絡船メモリアルシップ八甲
田丸」とも徒歩圏にあり、魅力あふれるウォーターフロント空間が形成さ
れている。現に東北新幹線新青森駅開業後には、青森駅周辺の観光入込客
は大幅に増加している。
 このように観光面ではコンパクトシティ化による効果が如実に表れてい
るものの、中心市街地が賑わいを取り戻すまでには至っておらず、その活
性化にまで波及させることが今後の課題と言えよう。
 一方で、新青森駅周辺では、大規模な商業施設や業務機能の立地を地区
計画により制限し、青森駅周辺との役割分担を図り、無秩序な市街地の拡
大にブレーキをかけている。新青森駅には、鉄道、バス、自家用車等の相
互の乗り換え利便性を重視した総合交通ターミナル機能を中心に、県内外
の観光客に対するおもてなし機能をもたせている。市の担当者は「空港の
ような新幹線の駅を目指している」と言う。
 現実には足元の経済情勢に加え、上述のような地区計画を設けたことも
あり、新青森駅周辺の土地区画整理事業により整地された空間は、開業後
も多くが売れ残っている。これについては批判も出ているようだが、市と
してはあくまでコンパクトシティの旗は下げず、ここで新たな投資や規制
緩和等を行う予定はないようである。低成長時代、人口減少時代における
都市構造のあり方を考える上で、一つの割り切った解として捉える事がで
きよう。

(1) 政令指定都市では、横浜市、大阪市、神戸市が該当する。さいたま市
では合併前の県庁所在地である旧浦和市ではなく旧大宮市に新幹線駅が設
置されたが、その大宮駅は新幹線開業前から埼玉県における交通の要衝で
あった。政令指定都市以外では、山口市の中心駅である山口駅は地方交通
線である山口線の駅であり、幹線である山陽本線に位置し山口線の起点で
もある新山口駅(旧小郡駅)に新幹線駅が設置された。群馬県の県庁所在
地である前橋市には新幹線が通っておらず高崎駅に新幹線駅が併設されて
いるが、新幹線開業前から同駅が群馬県における交通の要衝であった。鹿
児島市の九州新幹線鹿児島中央駅は新幹線開業前から同市の中心駅(西鹿
児島駅を改称)であった。また、大都市との距離の近さ等の地理的な条件
により、岐阜市、大津市には新幹線駅が設置されていない。
【参考文献】上村康之(2011)コンパクトシティを軸とした中心市街地活
性化の実態と課題:青森市、服部_二郎編『現代日本の地域研究』古今書院

                (地域経済研究所 講師 江川誠一)


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