========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.96/ 2 0 1 3.3 .29 (FRI) 発行

=================================

中国のものづくりの実力

 最近、中国広東省の産業高度化に関する研究に従事してきた。広東省は
中国でもいち早く市場経済化に取り組み、外資を中心とした輸出主導工業
化を定着させ著しい経済成長を遂げてきたことで知られている。こうした
輸出主導工業化を支える広東省のすそ野の広い産業集積の形成に日本企業
の進出が大きな役割を果たしてきたことは言うまでもない。日本企業の広
東進出は1980年代中頃から在香港日系企業の移転という形で始まったが、
1990年代に入ると複写機メーカーを先頭に、通信機器、家電など機械産業
の進出ラッシュが続き、2000年代にはホンダを筆頭に、日産、トヨタの3大
自動車メーカーとそれを支える部品メーカーの進出ラッシュが続いた。し
たがって、広東省の産業高度化を考える際に、日本企業を抜きに議論する
ことはできない。しかも複写機や自動車産業全体を高度化させる鍵は、そ
れらを支える部品メーカーにある。そこで昨年末、広東省に進出する電子
電機、輸送機械など機械産業に従事する日系部品メーカー20数社を訪問し、
広東省機械産業の高度化への課題について実態調査を行った。その中で中
国を代表する華南のものづくりの実力があらためて浮かび上がった。中国
がキャッチアップの対象とする韓国、台湾、日本と比較しながら、中国の
ものづくりの現状について報告する。

  まず、中国のものづくりの実力を議論するにあたって、中国機械産業の
国際競争力はどの程度なのかを日本、韓国、台湾と比較して見た。図1(省
略)は4か国の「RCA指数(※1)(顕示された比較優位指数)」の推移を示し
ているが、中国の指数は1995年以降右肩上がりで上昇し、2003年に競争力
を有する境界線である1を超え、2011年には1.50まで上昇している。つま
り中国の機械産業は2003年になって国際競争力を持ち始め、その後も競争
力を強め、最近では日本、韓国、台湾に迫っているのが分かる。日本、韓
国、台湾もアジア経済危機後、競争力は緩やかではあるが強まる方向にあ
るが、中国との差は年々縮まっている。
  それでは中国機械産業の競争力の源泉を知るため生産工程別に「消費財」、
「資本財」、「部品」、「加工品」の4つの貿易財に分類してそれぞれの
競争力の推移を見たのが図2(省略)である。これを見る限り、「加工品」と
「資本財」はかなりの競争力をつけてきている。また「部品」も2006年に
は競争力を持つようになり、その後も次第に競争力を強めている。こうし
た事実は、中国が「世界の工場」として原材料、部品、資本財の多くを輸
入し、加工組立てた完成品を輸出しているというこれまでの認識とは大き
く食い違っている。中国は既に消費財だけでなく資本財、部品の輸出にお
いても競争力を有するようになり、フルセット型の産業構造へと転換して
いる様子が分かる。
  また機械産業の中でも「一般機械」については、近年、中国からのパソ
コンや同製品の自動データ処理装置などの輸出急増で、中国の競争力は既
に日本、韓国、台湾を上回っている。「電気機械」も最近、携帯電話、半
導体、集積回路、電気通信機部品、それに家電ではカラーTV、音響機器、
エアコン、電卓などの輸出が伸び、2007年には競争力を持ち始め、その後
も徐々に強まる方向にある。他方、「輸送機械」と「精密機械」において
は、中国の競争力はない。自動車に代表される「輸送機械」では中国は日
本、韓国に遠く及ばない。中国は世界の自動車産業が進出して生産台数・
金額とも急増しているが、主な販売先は国内である。しかし、国内市場が
いずれ飽和になれば、輸出に打って出ることも考えられ、その際には自ず
と国際競争力も向上するであろう。
 このように中国のものづくりの実力は既に国際競争力を有するまで力を
つけてきており、「一般機械」や「電機機械」では既に日本、韓国、台湾
を凌駕している。しかし、中国のものづくりの現場を見ると、機械産業に
おいてはその担い手が日系、欧米系、韓国系、台湾系などの外資系企業で
ある。中国の機械産業の輸出額の約7割強は外資系企業に頼っている。それ
を象徴しているのが、広東省の外資を中心とした一大産業集積である。外
資セットメーカーの進出に追随し、今では外資系部品メーカーも多数進出
している。
  それでは国際競争力を持つに至った中国機械産業の高度化の鍵を握る部
品メーカーの外資系企業と中国企業の勢力図はどのようになっているか。
中国機械産業の競争力の源泉を知るだけでなく、在中国日系部品メーカー
の競争力を知るうえでも非常に興味深い。これまで広東省で実施した日系
部品メーカーの実態調査をもとに整理すると、製品の機能と技術水準から
3つに分類される。
  Aランク:「止まる、走る、曲がる」といった「安心」、「安全」
	         に関わる基幹部品
  Bランク:機能や品質のレベルがある程度高い部品
  Cランク:耐久性が短く、壊れやすいもので交換すれば使えるような部品
 A、B、Cランクの部品シェアは、自動車の場合で、それぞれ30%、20%、
50%程度を占めるという。Aランクは日系企業が圧倒的に強く、Bランクは
日系、台湾系、韓国系、それに今後中国企業を含めて競争が激しくなる分
野、Cランクは中国企業に太刀打ちできない分野に分かれる。そして、今後、
日系企業が生き残れる分野は「AまたはBに属する企業」と、高水準が求め
られる「素材企業」と「すり合せ技術」を持った企業であるというのが大
方の見方である。
 中国のものづくりの実力は、国際競争力を持つまでに成長したが、それ
を支えているのが日系企業など外資系企業である。今後を展望してもAラン
クの部品は日本企業の独壇場であるが、中国のものづくりでは必ずしもす
べての製品が100点満点の品質を求められるとは限らず、「ローカル化」と
呼ばれる現地の需要に合った製品レベルが求められている。また、Cランク
に属する汎用部品においては最近、中国企業がキャッチアップしてきてお
り、今後、日系企業はこの分野から撤退を余儀なくされるというのが中国
の現状である。
               (地域経済研究所 教授 丸屋豊二郎)

(※1)RCA指数=(当該国・地域の特定産業の輸出シェア)÷(世界の特定
産業の輸出シェア)。
RCA指数が1を超えた場合は対象国の当該産業に比較優位(国際競争力)が
あるとみなし、1を下回った場合には比較優位(国際競争力)がないもの
と判断する。


         このウィンドウを閉じる