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     VOL.97/ 2 0 1 3.4 .30 (TUE) 発行

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アベノミクスについて、2つの著書から考える

 2012年12月の総選挙で民主党政権が終わり、再び安倍首相による自公連
立政権が誕生した。その後、「アベノミクス」と名付けられた一連の新し
い経済政策が行われ、急激な円安と株高を実現させて人々の期待を高めて
いる。アベノミクスは特に金融政策の位置づけが従来と大きく異なり、そ
の軸となる日銀も黒田新総裁が「次元の異なる量的・質的金融緩和政策」
を打ち出し、ますます期待が膨らんでいる。
 こうした中で、アベノミクスを支持する論者と批判する論者が激しい論
争を行っている。書店に平積みされているベストセラーにも経済政策に関
するものが多く、国民の関心も高い。そのなかから2冊の代表的な書籍を紹
介し、アベノミクスについて考えることにしたい。それは、浜田宏一著「
アメリカは日本経済の復活を知っている」講談社、吉川洋「デフレーショ
ン」日本経済新聞出版社、の2冊である。
 アベノミクスにおける金融政策は「リフレ政策」と呼ばれ、それを推進
する人を「リフレ派」という。これに対して、リフレ政策に反対する人は
「反リフレ派」と呼ばれている。リフレ派の代表的な経済学者か浜田氏で、
反リフレ派の代表が吉川氏と言えるだろう。
 両者の主張の違いは、主に以下の点である。
  @デフレは不況の結果なのか、それとも原因なのか
  A金融政策(=日銀の役割)はデフレ脱却にどこまで有効なのか
  B物価水準は貨幣数量によって決まるのか、そうでないのか
  C新しい経済理論に基づいているのか、そうでないのか
 ざっと両派の見解を比較すると、@については原因とみるのがリフレ派
であるのに対し、結果とみるのが反リフレ派である。またAはリフレ派が
有効と考え、反リフレ派は限定的とみる。Bは決まると考えるのがリフレ
派で、反リフレ派は否定する。Cについては、リフレ派が新しい理論、反
リフレ派が古い理論と考えられているようである。ごく簡単にまとめると、
リフレ派はマネーサプライを増やせばデフレから脱却し、好況に転じると
考える。反リフレ派は需要を増やして不況から脱却すればデフレが終息す
ると考える、ということになる。
 リフレ派と反リフレ派のどちらが正しいかを判断することは難しい。な
ぜならば両者の違いは「経済の見方としての理論」の違いによるものであ
り、結局どちらが正しいかは結果すなわち現実を待つしかないからだ。経
済学は理論の正しさを実験室で確認することができない学問であり、Cに
ある「新しい経済理論」も新しい現実とともに生まれてきた。政権交代は
したもののねじれ国会の状態は変わらないから、アベノミクスも政策の成
果を検証できないほど中途半端な形に終わるかもしれず、両派の勝負がつ
かない可能性もある。
 しかし、最も重要なのは、どんな政策でも国民のためになることではな
いだろうか。勝負の行方はともあれ、アベノミクスを推進することが決ま
ったからには何らかの成果につながることを期待するのみである。

※余談になるが、2人の著者はイエール大学のトービン教授と深い関係に
ある。同じ先生に学んで、まったく違う考え方の人間になったことは興味
深い。実は前日銀総裁の白川氏も浜田氏に学んだのであるが、日銀流理論
に染まってしまい「学んだことを忘れてしまった」と浜田氏は嘆いている。

                (地域経済研究所 講師 井上 武史)


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