========地域経済研究所 eメールマガジン========

  VOL.9/2005.12.19(MON)発行

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特集 市町村合併と行政の効率性について考える

 近年「平成の大合併」のもとで、全国各地で次々と新しい自治体が誕生
した。本県においても武生市と今立町が合併して誕生した越前市、大野市
と和泉村の合併によって誕生した新・大野市、さらには南越前町、新・越
前町、若狭町など新たな自治体が次々と誕生している。その一方で全国的
にみれば福島県矢祭町などの「合併しない宣言」をする自治体も現れるな
どし、平成の大合併に対する各自治体の行動は必ずしも一様ではない。し
かしながら、合併するにしろしないにしろ、政府が主導した平成の大合併
は基礎自治体に大きな影響を与えたのは確かである。今後の「地方の時代」
の行方をうらなう上でも、なかば「雪崩式」に進展した市町村合併の意味
を改めて問い直すことが極めて重要である。そこで今回は市町村合併と行
政の効率について考えてみたい。
 さて、平成の大合併は政府主導の「国策合併」とういう側面が強かった。
そして政府が合併をなかば強行した背後には、基礎自治体の行政の「効率
性」という考え方がある。すなわち、日本の基礎自治体は規模があまりに
も小さいので非効率であるという考え方である。その考え方に従えば、市
町村合併によって大きくなれば効率性は向上するということになる。平成
の大合併において、行政の効率性を考える上で注目されたのが人口規模で
あった。すなわち、人口規模がどのくらいの規模になったら住民一人当た
りの行政コストが効率的になるのかという基準で規模の効率性を考えてい
くわけである。確かにこの尺度からすれば、人口30万人程度までは人口が
多くなるほど人口一人当たりの行政コストが下がり、自治体の効率性は向
上することになる。
 しかしながら、行政の効率性に影響を及ぼすのは何も人口規模だけでは
ない。特に重要なのが自治体の面積である。すなわち、1人あたりの面積
規模が大きくなれば人口一人当たりの行政コストが上がり、自治体の効率
性は低下する。こうしたことを踏まえて市町村合併を考えると、どのよう
なことがいえるのであろうか。例えば、市町村合併によって人口規模は2
倍になったが面積が5倍になった場合、果たして自治体の効率性は向上す
るのであろうか。実際に平成の大合併では、「日本最大の面積を持つ自治
体」が次々に生まれたことは記憶に新しい。平成の大合併では、人口規模
以上に面積規模が大きくなった自治体が相当数にのぼっている。
 また、見方を変えれば市町村合併によって効率的になるのは「規模の経
済」が働く事務だけであるが、少子高齢化社会の到来によって増大する行
政需要とは、保険・福祉・医療・教育などの人的サービスであり、こうし
たサービスは小さな地域ごとに地域特性を交流していく必要があるのであ
る。そしてここで重要な理論とは、規模の理論ではなく「個性(多様性)」
と「近接性」の理論なのである。
 今回は市町村合併を行政の効率性という視点からやや批判的にみてきた。
ほとんどの自治体において少子高齢化は待ったなしであり、今後は地域の
存続をかけた生き残り策を模索する必要がある。50年後、100年後の地域
が存続できるような仕組を今のうちからしっかりと考えておく必要がある。

■ 参考文献 
・加茂利夫「市町村合併と地域づくり」(所収 中村剛治郎編『地域の力
を日本の活力に 新時代の地域経済学』全国信用金庫協会、2005年)

                       (研究所・榊原雄一郎)


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