ε-ポリ-L-リジン(ε-PL)は、L-リジンのε-アミノ基とα-カルボキシル基がイソペプチド結合でつながった25~35残基からなる直鎖状のホモポリアミノ酸(ホモポリアミド)であり、放線菌Streptomyces albulus の二次代謝産物として生産されます。また、幅広い抗菌活性と高い安全性を有することから、数少ない“天然”の食品保存料として国内外で利用されています。ε-PL の化学構造は単純なポリマー構造であるにも関わらず、微生物生体内でどの様に合成されるのかについては不明のままでした。ε-PL の生合成を分子レベルで解明し、さらにそれを改良することが出来れば、多種多様な機能性ポリアミノ酸の創製が可能となりライフサイエンス、化学工業分野への応用が期待できます。
最近我々は、ε-PL 合成酵素(Pls)とその遺伝子を同定することに成功しました(Nature Chemical Biology, 4, 766-772, 2008)。
Plsの N末端領域には、ペプチド抗生物質の生合成酵素として知られているチオテンプレート型の非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)のA-ドメインとT-ドメインが存在していました。また、興味深いことに、NRPSとしては初めての例となる6カ所の膜貫通ドメイン(TM-ドメイン)を有する膜酵素であり、また、これらTM-ドメインに挟まれたC1-、C2-、C3-ドメインは、リジンのポリマー化(ペプチド合成)を直接触媒する重要なドメインであることも明らかにしています。その反応機構は、まず、基質であるL-リジンは、A-ドメインによってアデニル化(活性化)され、T-ドメインにチオエステル結合し伸長ユニットとして利用されます。次に、ペプチド合成ドメインであるC1-、C2-、C3-ドメインによって、酵素に結合していないフリーのL-リジン(プライミングユニット)とL-リジン伸長ユニットの間でペプチド結合が形成されL-リジンダイマーが合成されます。さらに伸長途中のε-PL鎖のN末端アミノ基(ε-アミノ基)が次サイクルでの求核的アクセプターなることで、繰り返しペプチド結合が形成され、ペプチド鎖が伸長することが明らかとなりました。以上のように、PlsがNRPS様式で基質アミノ酸を活性化し、アミノ酸リガーゼ様の縮合反応機構で繰り返しペプチド鎖の伸長を行なう新奇ペプチド合成酵素であることを明らかにしています。


ε-PLの化学構造はナイロン6のそれとよく似ています。近年における地球的規模での温暖化ガスの増加や昨今における原油価格の高騰、さらにはそう遠くない将来における化石資源の枯渇問題は、必然的な流れとして植物などの再生可能資源由来のバイオマスを利用したバイオプラスチックの開発に関心を高めています。
バイオプラスチックとしては、これまでに、「ポリ乳酸」、「ポリグリコール酸」、「ポリヒドロキシブチレート(PHB)」などのポリエステル系プラスチックが開発されていますが、強靱かつ柔軟で耐油性や耐薬品性に優れるポリアミド系バイオプラスチックについてはその開発が遅れています。そこで、ポリアミド系バイオプラスチックにおけるポリマー材料を酵素合成あるいは微生物により合成(バイオ変換プロセス)することが出来れば、バイオプラスチック研究の大きなブレークスルーとなります。本研究では、石油代替プラスチックとしてのバイオプラスチックの新たな創製技術の開拓することを目的とし、Plsの産業応用に関する研究を進めています。
