近年、MRSA、多剤耐性結核菌をはじめとする多剤耐性病原微生物の出現は、臨床上、極めて重要な問題になっています。
これまでに、この様な病原微生物に対する新しい抗生物質の合理的開発を目的に、その薬剤耐性メカニズムの研究が多数行われてきました。
特に、抗生物質の不活化を担う耐性遺伝子(抗生物質修飾酵素遺伝子)は、主な薬剤耐性メカニズムの1 つであるとともに、我々人類にとっては“臨床上の強敵”であることは、言うまでもありません。
これまでに、放線菌をはじめとする様々な微生物の代謝産物から、多種多様な抗生物質が単離され、臨床応用されてきました。
その一方で、強力な抗菌活性を示すにも関わらず、ヒトなどへの毒性の為、利用されていない抗生物質も多数存在することも事実です。
そこで我々は、この“臨床上の強敵”である抗生物質の修飾酵素遺伝子の機能に着目し、その修飾能を利用することでヒトなどへの毒性緩和が可能になるのではないかと考えています。

実際に最近、我々は、強毒性抗生物質ストレプトスリシン(ST)の新規耐性遺伝子(sttH)を利用し、ST の選択毒性を改変できることを見出しました [J. Biol. Chem., 281, 16842-16848 (2006)]。
その遺伝子産物であるSttH は、ストレプトリジンラクタム環のアミド結合の加水分解を触媒する酵素であり、それによってST 耐性を付与することを明らかにしました。
興味深い事に、SttH によるストレプトリジンラクタムの加水分解によって得られた、1 残基のβ-リジンを有するST-F-acid は、原核生物と真核生物のどちらにおいても抗菌活性を失うのに対し、β-リジン3 残基を有するST-D-acid の選択毒性は、バクテリア特異的なものへと変化しました。
ST類化合物はこれまでその毒性のため臨床開発には至っていません。
しかし、ST-D-acidは、真核細胞に対しては毒性が減少し、原核細胞には高い活性を維持していることを明らかにし臨床開発、または、医薬品開発の新しいリード化合物としての可能性を見出すことができました。