これまで、微生物、植物、動物などから得られる天然由来の生理活性物質は20,000化合物を超えており、その一部は医薬品、農薬などで利用されています。しかし、このように実用化されている化合物は1%のみであり、99%の化合物は強力な生理活性を示すにも関わらずヒトなどに対する毒性のため利用されないままになっています。
土壌微生物である放線菌が生産する強毒性抗生物質ストレプトスリシン(ST)は、その一例であり、強力な抗菌活性を示すにも関わらず、ヒトへの毒性が高く臨床応用されていません。そこで、STの抗生物質としての実用化を目指し、研究を展開しています。
近年、MRSAをはじめとする多剤耐性菌は、臨床上の重要な問題になっています。これまでに、多剤耐性菌に対する新しい抗生物質の合理的開発を目的に、その薬剤耐性メカニズムの研究が多数行われてきました。特に、抗生物質の不活化を担う耐性遺伝子(抗生物質修飾酵素遺伝子)は、主な薬剤耐性メカニズムの1 つであるとともに、我々人類にとっては“臨床上の強敵”であることは、言うまでもありません。そこで我々は、この“臨床上の強敵”である抗生物質の修飾酵素遺伝子の機能に着目し、その修飾能を利用することでヒトなどへの毒性緩和が可能になるのではないかと考えています。
実際に最近、我々は、STの新規耐性遺伝子(sttH)を利用し、ST の選択毒性を改変できることを見出しました [J. Biol. Chem., 281, 16842-16848 (2006)]。その遺伝子産物であるSttH は、ストレプトリジンラクタム環のアミド結合の加水分解を触媒する酵素であり、それによってST 耐性を付与することを明らかにしました。興味深い事に、SttH によるストレプトリジンラクタムの加水分解によって得られた、1 残基のβ-リジンを有するST-F-acid は、原核生物と真核生物のどちらにおいても抗菌活性を失うのに対し、β-リジン3 残基を有するST-D-acid の選択毒性は、バクテリア特異的なものへと変化しました。ST類化合物はこれまでその毒性のため臨床開発には至っていません。しかし、ST-D-acidは、真核細胞に対しては毒性が減少し、原核細胞には高い活性を維持していることを明らかにし臨床開発、または、医薬品開発の新しいリード化合物としての可能性を見出すことができました。
またその一方で、STのβリジンホモオリゴマー構造が生理活性に重要であり、ストレプトリジンラクタムの加水分解によって不活化したSTの生理活性をそのオリゴマー構造が長くなることで、復活することを見出しました。

これまでの研究成果から、STの化学構造を改変することでその毒性を緩和できる可能生を示すことができました。そこで、現在は、STの生合成遺伝子群の操作によって、あらたなST類縁化合物を創製し、医薬品リード化合物としての可能生を評価しています。
