あんぽ柿の除染と加工自粛のリスク便益分析(2013.2.12)

岡敏弘
朝日新聞「私の視点」欄の記事「放射能基準値:食品ごとに違うのが合理的」(2013.2.2)に、2011年から2012年にかけて行われた柿の木の除染の余命1年延長費用が約4000万円、2012年産の柿のあんぽ柿加工自粛の余命1年延長費用が約5億円であったと書いたが、その根拠は以下のとおりである。

1. 果樹の除染

1.1 リスク削減

 2011年秋の伊達地方(伊達市、桑折町、国見町)の試験加工あんぽ柿21標本の放射性セシウム濃度(福島県「あんぽ柿及び干し柿等の柿を原料とする乾燥果実の加工自粛要請について」2011年10月14日)から、伊達地方のあんぽ柿の母集団の放射性セシウム(Cs-134とCs-137との合計)の平均濃度が247.7 (90%CI: 176.7, 318.7)Bq/kgと推定される。2012年秋の試験加工あんぽ柿33標本の放射性セシウム濃度(福島県「あんぽ柿及び干し柿等の柿を原料とする乾燥果実の加工自粛要請について」2012年10月5日)から、2012年産の伊達地方のあんぽ柿の母集団のセシウム-134の平均濃度が50.0(90%CI: 40.2, 59.7)Bq/kg、セシウム-137の平均濃度が80.0(90%CI: 64.7, 95.3)Bq/kgと推定される。セシウム-134とセシウム-137の半減期(それぞれ2.06年、30.2年)から、1年前の両者の存在比は70.0:81.8であったと推定される。ここから、2011年秋の放射性セシウムの平均濃度247.7Bq/kgは、114.2Bq/kgのセシウム-134と133.5Bq/kgのセシウム-137とからなっていたとみなしうる。樹木と土との間で、また、樹木の中で、セシウムがどう移動するかが明らかでないので、これを無視して物理的減衰だけを考えると、果樹の除染が行われなかった場合には、これが自然に減衰して、2012年秋には、セシウム-134が81.6Bq/kg、セシウム-137が130.5Bq/kg、両者の合計で212.0Bq/kgになっていたと推定できる。
 そうすると、果樹の除染は、212.0(90%CI: 151.2, 272.9)Bq/kgになったはずのものを130.0(90%CI: 105.0, 154.9)Bq/kgに減らしたとみなしうる。今後10年間も物理的減衰だけが起こるとすると、年々1kgのあんぽ柿中の10年間の累積セシウム濃度の、2012年の1kg当りにしたものは、除染なしの場合1399.8Bq/kg、除染ありの場合858.1Bq/kgになる。除染による減少分は541.7(90%CI: 107.8, 975.7)Bq/kgである。
 JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会がまとめた賠償請求の第8次(2012年1月1日請求)と第9次(同1月31日請求)の中にあんぽ柿に関わるもの20億9900万円が含まれていると福島民報が報じている(福島民報2011年12月7日、2012年1月19日)。第10次以降も請求があるようだが、第8次と第9次が全体の損害額の92%を占めるとする(JA伊達みらいでの聴取りから)と、福島県の2011年産あんぽ柿加工自粛の損害額は22億7500万円と推定される。あんぽ柿の損害賠償額は、加工費用が不要になった分を差し引いたもので、出荷額の76〜77%とされているから、加工自粛による出荷額の減少は、29億7400万円と推定される。2010年産あんぽ柿の全農の販売実績から出荷単価が1507円/kgなので、加工自粛による出荷量の減少は1973t、そのうち伊達地方は1737tと推定される。
 上の累積濃度減少分をこれにかけると、10年間の放射性セシウム摂取回避量は9.4(90%CI: 1.9, 17)×108Bqとなる。損失余命係数6.1×10-6日/Bqを使うと、余命延長は、16(90%CI: 3.1, 28)年である。

1.2 費用

 2011年度の伊達市の果樹除染費用7億3000万円(伊達市からJA伊達みらいへの業務委託)のうち柿の分を、果樹除染作業に占める柿の割合---果樹382806本のうち柿が214330本であり、柿1本あたりの作業時間を他の樹種の3倍と仮定すると、79%が柿となる(JA伊達みらい)---から、5億8000万円とする。国見町、桑折町の柿の本数---それぞれ29726、13461---から、伊達地方全体の柿の除染費用を7.0億円とする。
 これを上の余命延長で割ると、余命1年延長費用(CPLYS)は4400万(90%CI: 2200万, 25000万)円となる。

2. 2012年産あんぽ柿の加工自粛

2012年産の放射性セシウム濃度の伊達地方の母集団平均推定値---130(90%CI: 105.0, 154.9)Bq/kg---と出荷減少分(1973t)から、加工しないことによるセシウム摂取回避量は2.6(90%CI: 2.1, 3.1)×108Bq。これによる余命延長は4.3(90%CI: 3.5, 5.1)年である。加工自粛の損害額が前年度と同じとすると、損害額は22億7500万円だから、余命1年延長費用は5.3(90%CI: 4.4, 6.6)億円となる。

謝辞

JA伊達みらいの数又清市さんから多くの情報を提供していただいたことに感謝申し上げます。

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