生物環境学

 農業を産業としてみたとき,食糧生産と環境保全はトレードオフの関係にある.しかし原始時代のように人間が生物同様自然の一部として存在し,食糧を採取する限り,環境は破壊されない.また,戦前のように,自然の摂理を知り,知恵をつくして適正量を生産するならば環境への負荷は小さく回復させながらの持続可能な農業となる.しかし,戦後の機械化,化学化による単作のように集約的な産業としての農業は,土壌や地下水など資源としての作物環境を劣化させ,地球環境への負荷を高めている.
世界的に見て現在のところ食糧は限られた地域を除いて量的には満たされているものの安全性が危惧されるようになってきている.巨大人口を抱える中国は,その経済発展と工業化の過程で食糧輸入国に転じ,近いうちに15憶とも予想されている中国人が肉食に転じたならば,飼料作物の不足に始まり世界の食糧事情は厳しいものになろう.
化石エネルギー資源に限りがある限り,農業は工業のように工場生産だけに頼ることができない.自然エネルギーに依存する農業では,適地適作といわれるように地域毎に知恵を絞った技術が要求される.食糧不足が危惧される21世紀には,自然環境をできるだけ損なわない方法で,可能な限りの農業適地を利用しなければならない.環境負荷を最小限にし,安全な食糧を生産するには,土壌生態系を中心とする物質循環を定量的に把握し,過剰な施肥や防除を行わない農業を実現する必要がある.
 土壌-植物-大気の連続系(SPAC: Soil-Plant-Atmosphere-continuum)では,水や窒素など物質が小動物や微生物を介して循環しており,その環境の中で作物は気象の影響を受けながら生長する.その仕組みを学ぶ生物環境学は,環境への負荷を最小限にする農業生産の方法を考えるための基礎学と言えよう.冬麦を栽培し,春先に生長した麦の傍らにトマトを栽培する.麦がトマトを風から守り,トマトが風に耐えられるように生長したとき麦が収穫される.この時期の風は虫害を防ぎ,麦ワラは土壌水分を保持するとともに地力維持に役立つ.多種多様の作物栽培が多様な動物相を形成し特定の害虫が異常発生することを防いでいる.このような作付け体系は,環境への負荷とエネルギー投資を最小限にするため人間が長い年月をかけて築いてきた知恵の結集である.
21世紀の地球環境を守り,食糧を確保するために,まずは植物の周りの仕組みを理解することから始めよう.本書は,大学の一般教育科目として理系,文系を問わず多くの学生に植物が生きる環境を理解してほしいと願って著した.したがって,農業気象学,土壌学,作物学を基礎とするものの,その知識を修得していることを前提とせず,できるだけ平易に記述している.興味がもてれば,それぞれの学に進んでもらいたい.

1章 生物環境学とは

 農学は総合科学であり,概ねつぎの4つに分類される.すなわち,生物生産科学,生物機能科学,生物環境科学,生物資源経済学あるいは農村社会学である. 生物生産科学は,食料や生活資材となる生物の生命の仕組みを明らかにし,その潜在能力を引き出し,安定した生産をはかり,同時にそれらを有効に利用するための科学で,育種学や栽培学等を基本とする.
 生物機能科学は,農業などで一次生産された生物資源に物理的,化学的,生物的作用を加えて二次生産物を作ること,生物資源のもつ機能を明らかにし,かつ機能を高め人間の生活に密着した利用を図るための科学ある.発酵化学,生化学,分子生物学等を基礎とし,その発達の過程で遺伝子組替え,細胞融合,蛋白質工学などバイテクの中核技術を進歩させてきた.
 生物環境科学は,一次産業の場となる自然環境の特性を把握し,その基盤を整備・管理することによって一次産業の持続的発展と地球環境の維持を目的とする科学で,土壌学,水文学,生態学,工学,計画学等を基礎とする.
生物資源経済学あるいは農村社会学は,産業の担い手,またはその場となる農山漁村の文化的,社会的,経済的環境の特質とその発展方策を解明し,生物資源の有効利用と環境保全の調和を確立するための科学であり,経営学や会計学,環境経済・政策学等を基礎とする,自然・人文・社会科学の広い範囲にわたる学問である.
 以上は,京都大学農学部の学科案内用ホームページからの抜粋である.ただし,同学部では,最後に述べた生物資源経済学あるいは農村社会学を生物環境科学の中に包含している.
 生物環境科学を扱う本書では,農林水畜産を対象とする生物環境科学のなかで特に農業に焦点を絞り,いわば作物生産環境学という視点で述べる.作物は,太陽エネルギーを利用して主に水,炭素,窒素から有機物を生成する.その過程では作物体を中心に,土壌,大気を媒体とした,水,炭素,窒素などの物質の移動,循環がある.また,大気の状態(気象)によって作物の生長は多いに影響を受ける.この土壌・植物・大気の連続系(SPAC: Soil-Plant-Atmosphere -Continuum)を理解することが重要になる.このことを目的とした生物環境学,あるいは作物生産環境学は,伝統的に個別の学問として発達してきた土壌学や農業気象学などと違い,学としての体系化はなされておらず,学問としての知名度も乏しく名前も定着していない.しかし近年Biosytems Engineering, Agro-ecosystems Engineering ,Production Ecology,Crop Ecologyといった名称を冠した書物中で扱われてきている.図 は植物を中心とする環境と,その中の物質や現象を模式的に表したものである.そして,図中の文字は,本書で学ぶ内容のキーワードでもある.

2章 持続可能な農業

2-1 食糧をとりまく問題

 1960年から1990年の30年間に世界の人口はxx憶人からxx億人,約1.8倍に増大し,その後も増え続けている.その間に穀物生産量はおよそ2.2倍,よって一人当たりの穀物生産量は1.2倍となり,いわゆる食糧事情は豊かになったかに見える.しかし,実際は2000年には栄養不足人口がアルリカやアジアを中心に全人口お1割に相当する5.3億人にもなると予想されている.その理由は,人口増加の地域格差(人口増加は先進国の平均が1.3倍であるのに対して,アフリカ2.3倍,中南米2.1倍,インド1.9倍,中国1.7倍),および食糧生産量が,近代的農業技術による反収の増大によるところが大きく,それも限界に達していることや耕地面積が減少の傾向にあることによる.また人口増加の少ない先進国でも,その自給率は日本47%,スイス65%,英国73%,ドイツ94%,米国113%,フランス143%(いずれも1997年)と幅があり,途上国の事情と合わせて世界的な食糧危機の可能性も十分考えられる.
 また,近代農業技術は化学化と機械化に代表されるいわ農業の工業化であり,エネルギー消費型の農業である.化学肥料や農薬の多投は,地下水を汚染すると共に,土壌の劣化や流出を起こし,大型機械の投入がそれを勢いづけている.農業の分業が進んだことで効率の高い単品種栽培による連作障害とそれに伴う農薬の多投と薬害も見逃せない.農作物の自由化による輸入依存による農業の後継者不足や農村の過疎化,それにともなう農地や森林の劣化が河川や河口を汚濁しつつある.途上国では,先進国の進出や工業化にともなって,森林伐採,沙漠化,農作放棄などが起こってきた.このように,都市や農村の近代化は地域的にも地球規模で種々の環境問題をもたらしている.

2-2 持続可能な農業

 英国では都市周辺部にある農村地域が環境保全に重要な役割を果たすとの認識からグランドワーク(田園地域委員会)という政府機関の実験事業が1970年代に始まり,以後自治体や市民グループの活動に発展し,1985年にグランドワーク事業団が発足,その活動が全世界に広がっている.米国では近代農業による土壌侵食などを無視できなくなり1980年代に,農薬・肥料をゼロとする完全有機農法を目指し,化学肥料,除草剤,殺菌剤,ホルモン剤を3年さかのぼって使用していない圃場において生産された農作物を優遇し,有機農業を徹底させようとした.しかし,広大な農地で大型機械を使い,化学化の進んだ米国では有機農業への移行は難しく,その後できるだけ化学物質を控える低投入農業LISA (Low Input  Sustainable Agriculture)へ移行した.このころから,全世界的に持続可能な農業(Sustainable Agriculture)が注目され始め,わが国でも有機農業が環境保全型農業として見直され,輪作体系など昔からの農法や,土壌の生態系を維持しながら資源を有効に利用する農業の重要性が認識されてきている.
 持続可能な農業が目標とするところは,限られた生物資源と太陽エネルギーを保持しながら,経営的に必要な食糧を獲得していくことであり,具体的には以下のような特徴を持つ農業といえる.
  • 環境の質を維持しながら,天然資源を保存しつつ同時に急激な人口増加に対応して十分な食糧を生産する.
  • 長期間にわたって生態学的な安定を保ちながら(生物学的要求を満たしながら)毎年多収をあげるという2つのバランスを考える.
  • 農業生態系の中で養分を効率よく循環させ,システムのエネルギーの供給源である太陽エネルギーを維持するためのモデル体系をつくる.
  • 化学薬品(殺虫剤と可溶性の肥料)を最小レベルにする.
  • 経営学的には,長期的視点で系を最適な状態に維持する.

3章 地球規模の物質循環

 地上10数km以下の対流圏と,その上の成層圏との境界領域には近年話題のオゾン層が存在する.大気圏にはおよそ340W/m2の太陽光が放射され,そのうち強い紫外線の多くはオゾン層に吸収される.その結果,地上には可視光線や赤外線など地上の生物にとって穏やかな光波(波長300nm以上)が入ってくる.このオゾン層以下の対流圏や地表下1m程度の土壌空間は,生物群集と,これを取り巻く無機的環境が相互に関わる生態系を形成し,水,窒素,酸素,炭素など地球特有の物質が土壌を介して循環する閉じたシステムとなっている.

3-1 水の循環

 地球上にはおよそ1.4×1018トンの水が存在し,うち海水97%,海氷2%,その他は淡水と水蒸気である.淡水が占める割合はわずか0.8%に過ぎず,しかもそのほんんどが地下水で,私たちにとって身近な河川や湖沼水はわずかに0.008%程度である.生活水を引いている河川水の量は地球上の総水量の0.0001%にしかすぎない.(水のはなし,原 雄,技報堂出版)こんなに少ない河川水でなぜ地球上の人間が生きていけるのか?それは,10日くらいの間隔で大気中の水蒸気が置き換わっているからである.つまり,水の蒸発・循環の周期は10日位と非常に速いサイクルであり,河川には常に新しい水が流入し,すぐに流出していくのである.
 大気中の水蒸気は雨や雪となって地上に降り,蒸発によってまた大気に戻るという循環を繰り返している.図 に見られるように降水量と蒸発量の水収支は陸上で−310mm/年,海上で+130mm/年であり,陸上から河川や地下水を経由して海洋に年間46兆(4.6×1014)トンの水が移動することによって陸上より多い海水の蒸発が補われている.大気中に存在する水蒸気は雨や雪となって陸上や海上に降りそそぎ,最終的には蒸発によって大気に戻る.地上への降水の一部は,地表面蒸発によって大気中に戻るが,残りは地表を流れたり,地中へ浸透したのち地下水となって,最終的に河川,そして海に流出する.かくして,図 に示すように,陸上への降水が地中を経由して海中に流れ込み,海面から蒸発するという水の循環が起こる.陸や海の面積を勘案するとこの循環水の量がおよそ46兆トンに達するわけである.この循環水が土壌や地盤を潤し,地下水や河川水を常に新しいものにしている.それに,岩石の成分である塩が風化等によって溶脱し,地下水や河川を通して海に流入した結果,永年の間に海水中に蓄積したと考えられている.すなわち,地中の循環水が海を塩水とし,多様な生態系を作っているのである.
 さて,水の循環は気象の影響を受けるため,その特性は地球上の場所によって大いに異なる.地球全体で見ると上述のように陸地では降水量の方が蒸発量より多いが,降水量や蒸発量は地理的条件や季節によって異なる.砂漠地では陸地と言えども蒸発量が降水量を越えることが多く,夜間にしばしば土中水が上方向に移動し蒸発する.降水量が少ないか,降水量があっても季節による変動が大きい,あるいは土壌が砂質で地下への浸透が極めて速いか上方への蒸発が盛んな環境下では,植物が必要とする水を常に土壌が含んでいるとは限らない.砂漠に自生する植物の中には,好条件になるまで何年でも発芽しない種や,発芽後,短期間のうちに根長が30mにも達するものがある(砂漠に生きる).このように自然の植物は地域の環境に適応した機能を有するよう進化しているが,農作物の栽培では天水に任すことが出来ず,一般に河川や地下水から取水し,灌漑を行う必要がある.わが国のように,山岳地帯が多く,河川も急峻な地域で,かつ特定の月に雨量が多く,また水田のように一度に多量の水を必要とする環境では,ため池やダムのような貯水施設や用水路のような灌漑施設が必要になる.また,降水量が少なく,蒸発量が多い,エジプト,トルコ,イスラエルなど中東の国々では,きわめて貴重な水を独特の灌漑方法で利用している.
 地球規模での水循環は古来,続いてきたわけであり,量的な過不足は災害や干ばつをもたらすとはいえ,防災や灌漑によって人工的に対処してきた.しかし,近年大気中の窒素酸化物や硫黄酸化物による酸性雨,生活排水による河川や湖沼の汚濁など水質汚染が問題になってきている.農地でも土壌の浄化機能を越える化学物質が投入され,土壌劣化と地下水汚染をもたらしつつある.
【別記】
 水の循環は地球上の生命を育んできたが,汚染された水は循環によって,汚染を拡げつつある.その結果,いわゆる気候帯が形成され,地域の地質的,地理的,文化的特性が場所によって異なってくる.図 に示すように日本の年降水量は世界的に見て大きい.とはいえ,日本国内でも香川県の年降水量は mmで世界平均より少なく,一つの県内でも地域差は極めて大きい.地域の降水特性に加えて,年間を通じての降水分布特性によって農業や生活様式が違ってくる.小雨地域では灌漑施設が多くなったり,水分が少なくても生育する作物を中心とする農業が営まれる.また,降水が梅雨や台風期に集中し,かつ急峻な山のために地表流出が多い日本では,年降水量が多くても図 のように灌漑水量は小雨国並みに多くなっている.

3-2 炭素循環

 地球上の植物の多くは光合成機能によって,大気中にわずかに含まれる (350ppm程度) 炭酸ガスと根から吸収した水から炭素を同化する.さらに葉中に貯えられる炭水化物と根から吸収した窒素成分とからアミノ酸や蛋白質を作り出す.いわゆる炭素や窒素といった無機元素から自分のからだや,それに貯えるでんぷんなど有機物を生成している.植物は枯死したり動物に食される.その植物残さは,動物遺体とともの土中に埋もれ,土中の小動物や微生物による分解を受ける.これら有機物はさらに微生物呼吸により消費され,炭酸ガスとなって大気に戻る.このように見ると,炭素は大気から植物体内へ,それを食する動物体内から土中へ,そして再び大気へと循環していることがわかる.このほか炭素は,動植物の呼吸によっても大気に放出されるし,工場や車等,化石燃料の燃焼によっても大気に放出される.
 炭素の循環は,陸はもとより海でも行われている.そして陸より海のほうが循環する炭素量は多い.図 に示すように陸海を合わせると年間約1350億トンの炭素が陸や海の中に入り,1320億トンが出ていく.その差,30億トンは従来,海底や地下に有機物として,あるいは石炭や石油として蓄積されてきたわけである.大気中の二酸化炭素濃度が濃くなると,海水がその一部を吸収し,逆に薄くなると海中の溶解炭素が気化放出されるという方法で,海洋と大気の炭酸ガス濃度は平衡を保ってきた.これを海洋の緩衝作用という.ところが,地下に蓄積されている石炭や石油を掘り出し,化石燃料として燃やす工業的な炭素放出が陸上で多くなり,最近では年間60億トンに達している.そして海洋の炭素ガス緩衝能を超えるようになり徐々に大気中の炭酸ガス濃度を増大して,地球規模の温暖化問題に発展してきている.

3-3 窒素循環

 窒素ガスは,炭素ガスに比べてはるかに多く大気中に存在し,また地中堆積物として,あるいは地殻中に大量に存在する.炭素と同様,窒素も大気と地中や海中を循環しているが,循環している量は炭素よりはるかに少ない.さて,図 のように,生物によって固定される窒素量は炭素にくらべて少なく,海陸あわせて年間約9200万トンの窒素が固定される.陸では年間約4400万トンが根粒菌などの生物によって,3000万トンが工業的に固定される.海では主として藻類などの生物固定が1000万トンである.その他,陸海ともに雷による空中固定や火山活動によるもの800万トン程度ある.
 このように大気中の窒素ガスは固定されて土中や海中に入り,硝酸態窒素などの形で存在する.これを植物が栄養として根から吸収し,光合成によって得た炭水化物と合わせてアミノ酸や蛋白質をつくる.植物が枯死したり,食物連鎖を経て土中で有機物あるいは腐食の形で蓄積される.この死体有機物の形で存在する窒素量は土中で7600億トン,海中で9000億トンもある.それらは,小動物や微生物によって分解され無機窒素に変わる.アンモニア菌によってアンモニア態窒素となり,さらに硝酸化成菌によって硝酸態窒素となる(図  ).これらは工業的に固定された化学肥料と同じく水溶性で,土壌水に溶解し,土壌に吸着されている.一般の植物は硝酸態窒素を吸収する.稲などはアンモニア態窒素を吸収する.植物に吸収されずに残った硝酸態窒素は,一部は土壌などに吸着されているが,マイナス電荷を帯びているために多量には吸着されず土壌水とともに移動し,地下水から河川へ,そして海中へと移動する.酸素の少ない嫌気的な状況では脱膣菌により還元され遊離窒素として大気に放出される.かくて,約8300万トンが窒素ガスとして大気に戻る.
 自然の窒素循環が行われている際には,過剰な窒素は死体有機物や地中堆積物として蓄積されるに過ぎない.しかし,工業的に固定される窒素の量は,1970年の3000万トンから,2000年には1億トンを超えるとも予測されており,自然の窒素循環を破壊しかねない状態にある.化学肥料に代表される無機窒素が大量に農地に施され,地下水や河川,あるいは海洋を汚染することになる.

4章 農地における物質循環

 地球規模の物質循環に続いて農地レベルの物質循環をみてみよう.農耕地は自然の循環系と,収穫等の人間活動が加わる半人工的生態系である,生物群集が単純である,比較的開かれた循環系である,等の点で異なることに注意されたい.ここでは,炭素,有機物,窒素の循環を調査した事例研究を通して地域内の物質循環を定量的に理解しよう.

4-1 炭素循環と土中への蓄積

 図 は畑地における炭素循環を示す.大気中の炭酸ガスを植物が取り込み,光合成を経て,炭水化物の形で一部は人間,家畜,昆虫によって捕食され,残りが植物残さ(リター),あるいは堆厩肥として農地に還元される.土中に還元された有機物は,土中の小動物や微生物(分解者)によって分解,呼吸として消費され,炭酸ガスとして大気に戻る.図 は陸稲栽培地での調査結果で,図中の数値は,炭素重量[gC/m2]で,( )内の数値は,トウモロコシ栽培地の結果である.ただし,昆虫による捕食はないものとし,堆厩肥等は投下されていない.土中の炭素収支は以下のようになる.
陸 稲 培 地   436-(115+177+460)=-316 [gC/m2]
トウモロコシ培地  548-(180+166+469)=-267 [gC/m2]
このように,堆厩肥等有機物を投入しないと,土中の炭素量は年々減少することがわかる.この量は,地下70cmまでの炭素貯蓄量の1.24〜1.68%に相当する.調査をした小泉によれば,有機物中の炭素含有量はおよそ40%であることから,土壌中の炭素を安定的に保持するには,毎年1200g/m2の有機物を農地に投入する必要があるとしている.
図 は湛水期間の水稲圃場における炭素循環を示す.畑地との違いは,有機物を含む灌漑水の流入出があること,湛水中に光合成をする藻類などが生育するため,水稲だけでなく,藻類を中心とする炭素循環もあるという点である.炭素収支は以下のようになる.
水 稲 培 地   (1311+37+31)-(543+597+11+132+23+26)=47 [gC/m2]
 炭素収支がマイナスになる畑地と違い,水田では湛水時にはプラスになる.その理由は以下のようである.
@ 水田が還元状態にあること,湛水により地温の上昇が抑制されることによって微生物分解による炭素の放出が少ない.
A 藻類による土中への炭素供給がある.
B 灌漑水から土中への炭素供給がある.
 このほか,灌漑水や藻類の影響を除外し,光合成量に対する炭素放出量を比べると,陸稲では(460+177)/436=146%,水稲では(132+597)/1311=55.6%となり,水稲が陸稲にくらべて土中の炭素蓄積効果の高い植物であると言える.なお,落水期でも,畑地に比べて炭素の放出が少なく収支は-69 [gC/m2]である.

4-2 有機物と窒素の収支

 食生活廃棄物の農地への還元,作物種によって量的に異なる化学肥料の投入など,窒素循環は人為的要素の影響を強く受ける点で炭素循環と異なる.このことから,窒素循環は,単一の農地より広い地域レベルでその収支を見る必要がある.また,窒素の流出は環境負荷が高いこともあり,窒素は地域レベルで適正に管理されなければならない.つまり,炭素は農地レベルで資源維持のために,窒素は地域レベルで環境保全のために管理する必要がある.
 松本は茨城県の2つの地域で有機物の流れと農地における窒素の流入出を調査した.表  に示すように,対象地域の牛久沼集水域はつくば市西部の平坦農村地域で,人口密度522人/km2,農地率37%で水田はその39%,養豚が盛ん(197頭/ha)な地域である.一方の取手市は,東京から40kmのベッドタウンであることから人口密度が2134人/km2と高く,農地(農地率23%)の大半が水田である.以下に調査結果を引用し,有機物と窒素の流れを見てみよう.
(1) 有機物の流れ
 基本的な流れは,農産物の一部が食生活廃棄物あるいはリターとして農地に還元され,土壌生物によって無機化窒素に分解される.無機化窒素の一部は植物によって栄養素として吸収される.農地に還元されない有機物(食生活廃棄物や畜産廃棄物)の一部は,環境負荷として計測される.松本は,有機物の評価にリサイクル率を用いている.
   リサイクル率=農地還元量/(農地還元量+環境負荷)
調査の結果は表 のようである.表中の無機化窒素量は,数値モデルによる推定値である.環境負荷が取手市で大きいのは食生活廃棄物が農地に還元されない(リサイクル率は2%)ことによる.取手市で生産される有機物量のほうが多いのに,土中の推定無機化窒素量は両地域でほぼ同じとなっていることに対して,調査した松本は,リサイクル率が少し低いことと,農地に還元される有機物の大半を占める水稲ワラの窒素含有率が低いことによると推定している.実際,リサイクル率を100%として推定すると,取手市の無機化窒素量は大分多くなっている.
(2) 農地における無機化窒素
 まず,上記の有機物の無機化を考えないで,無機化窒素の流入出を調査した結果は表  のようである.地域全体の窒素収支は表より以下のようである.
牛久沼 833,710-1,055,855=-222,145[kg/yr]=-40[kg/ha yr]
取手市 103,432-147,192=-43,760[kg/yr]=-56[kg/ha yr]
 よって,地域の土壌内無機化窒素量は毎年減少することになるが,(1)で述べた農地還元有機物による無機化窒素(推定値)を考慮すると,土壌内無機化窒素量は牛久沼では+8[kg/ha yr](リサイクル率R=76%),取手市では,-6[kg/ha yr] (R=63%)でほぼ土壌内に無機化窒素は蓄積されないことになる.あえてリサイクル率を100%にすると,牛久沼では+17[kg/ha yr],取手市では+30[kg/ha yr]となって,無機化窒素は過剰になる.化学肥料の投入量は牛久沼で107[kg/ha yr],取手市で94[kg/ha yr]であるから,リサイクル率を100%にして,化学肥料を相応に削減すればよいことになる.しかし,実際はリサイクル率を上げて,化学肥料を削減すればよいというほど単純ではない.牛久沼では,地域の20%を占めるシバ栽培地で,大量の化学肥料を用い,また無機化窒素も多く流出しているが,同地で有機物のリサイクルはできない.取手市の食生活廃棄物のリサイクル率は2%であるが,人口の多くが都市生活者である同市ではそれらを農地に還元する仕組みをつくることは容易でなかろう.しかし,いずれの問題も,畜産,畑作,稲作,居住等の仕組みを再構築することで化学肥料を少なく,リサイクル率を上げるということも可能ではある.なぜなら,近代農業が導入される戦前の日本ではそのようにしてきたのであるから.

5 土壌環境

5-1 土壌とは

(1) 土壌の形成
 地殻を形成する岩石(長石,石英,雲母,カンラン石など一次鉱物で母材とも呼ばれる)は,図 のように主として酸素,珪素,アルミナ,鉄からなるが,その他多くのミネラルを含有している.岩石は,物理的,化学的,そして生物的風化を受け,その一部は粘土など二次鉱物を生成しつつ,また侵食作用を受けて移動・堆積を繰り返す中で図 のような土層を形成する.地表付近のA層は,岩石から生成された粘土鉱物や落葉や植物残さに起因する土壌有機物あるいはそれが微生物作用を受けてできる腐植からなる.A層の下方にはA層から抜けた養分やBC層の岩石風化物が混合したB層が存在する.地表下,およそ数mあるいはそれ以下に形成されるA層やB層を総称して土壌と呼んでいる.土壌は,気候や植生と強く影響を及ぼし合い,図 に示すように気候帯,植生とも密接な関係を持っている.
(2) 土壌の構成物質
土壌は,母材,粘土鉱物,土壌有機物,水,ガス,水溶性塩類,非水溶性化合物(アルミニウム,珪素など)からなる.土壌有機物(SOM)は植物遺体や微生物バイオマス,生化学的化合物(糖,蛋白質,アミノ酸など物質の分解過程で放出されたもの),有機物の微生物による分解過程で生成される腐植(芳香性フェノール,糖,窒素化合物などからなる高分子物質)からなる(微生物バイオマス2ton/ha).粘土鉱物は,一次鉱物である岩石が風化する過程で生成される電荷を帯びた物質で,植物の養分となる水溶性塩類や土壌水分を保持するといった重要な役割を果たしている.
(3) 土壌の種類
 土壌は色々な物質から構成されるが,土そのものをふるいわけると,図 のように土は,粒径によってレキから粘土まで分類される.実際の土壌は砂や粘土が混合している.その混合割合によって,図 のように砂土,壌土,埴土,あるいはその中間の埴壌土や砂壌土などに分類できる.この名称は,農学,土工など分野によって異なる.
(4) 農耕地の土壌
 植生あるいは農業にとって好ましい土壌とは,深いところまで柔らかく,排水性と保水性に優れ,pHが中性で肥沃度が高いものである.農業にはとくに平坦地がよい.世界の陸地の11%が農業適地と言われている.母材密度(真比重)はおよそ2.65g/cm3である.農耕地土壌の単位あたり乾燥密度(仮比重)はおよそ1.3g/cm3,比表面積は500〜1000m2/cm3である.このように乾燥密度が小さく,比表面積が大きいのは,農耕地の土壌が団粒化しているためである.団粒化した土壌は,大きな孔隙をもつため通気や排水性,あるいは浸潤性に優れ,合わせて保水性や保肥性を有する.砂だけの土壌は団粒化しない.土壌の団粒化には,粘土や腐食,あるいは生物遺体が大きな役割を果たしている.

5-2 土壌は荷電物質

(1) 粘土鉱物
 粘土鉱物は,珪素を核とする珪酸四面体,アルミニウムを核とするアルミナ八面体,あるいはその組み合わせによって構成される.珪酸四面体とアルミナ八面体が結合してできる粘土鉱物を1:1型粘土鉱物と呼び,その代表的なものがカオリンと呼ばれるもので,陶磁器などの原料になる.アルミナ八面体を2枚の珪酸四面体がサンドイッチ状に挟む結合によってできる粘土鉱物を2:1型粘土鉱物と呼び,その代表的なものがモンモリロナイトと呼ばれるもので,吸水性が高く,胃腸薬の材料など多方面で利用されている.
(2) 永久荷電とpH依存荷電
一般に粘土鉱物は細長い薄片形状をしており,長い面は負に,短い面で正の電荷を多く持つ.珪酸四面体の核となるSi4+が,Al3+あるいはFe3+に入れ替わることがある.またアルミナ八面体のAl3+がMg2+ に入れ替わることがある.このような入れ替えはしばしば起こるものではないが,自然界では珍しいことではない.そして入れ替えが起こるとその粘土鉱物はマイナス荷電(永久荷電)をもつことになる.
 一方,粘土鉱物の結晶端面では,図 のように珪酸四面体やアルミナ八面体が完全に結合できず,酸素原子や水酸基が負の電荷を帯びている.切断個所によっては正の荷電を帯びることになる.例えば,珪酸四面体の端面では,土壌水が酸性になる(水素イオン濃度が高まる)と,水素イオンと端面で負に荷電している酸素原子が結合して水酸基を生じ,荷電が消滅する.逆に,土壌水がアルカリの度合いを増す(水酸基イオンが多くなる)と端面の水酸基と結合して水分子を形成し,その結果生じる酸素原子によって端面は再び負に荷電することになる.このように土壌端面の荷電量は,土壌水のpHに依存して変化するので,永久荷電に対してpH依存荷電と呼ぶ.アルミナ八面体や腐食の端面でも同様にpH依存荷電が存在する.
(3) イオン交換
 この端面の荷電が,土壌水中に溶解して電荷を帯びているミネラル,いわゆるイオンを引き付ける重要な働きをしている.いま,カリウムイオンK+が引き付けられているとしよう.土壌水中にCA++が増えてくると,K+に代わってCa++が引き付けられやすい.このような現象をイオン交換と呼ぶ.イオン交換は常時発生しており,価数が高いほど,また土壌水中の濃度が高いほど,土壌端面に引き付けられているイオンと交換されやすい.Cdなど重金属はイオン交換性が強く,一度粘土鉱物などの表面に取り込まれると,もはや離れることはない.土壌の重金属汚染である.
(4) 団粒構造
 粘土鉱物は数百枚の積層構造をしている上に,負や正の荷電をもつため,電気的に結合し図  のような団粒を構成する.腐植も負の電荷をもつために,複雑に結合している.さらに,動物の糞や微生物遺体などが団粒間で接着作用をする結果,二次・三次団粒を形成する.この,団粒構造が,多様な土壌生物の棲家を提供するとともに,大間隙や小間隙の存在が,後述する水の保水性と排水性という背反する機能を提供しているのである.

5-3 土壌の養分保持

(1) 植物の養分
 植物体の構成物質とその割合は,およそ水75%,炭素10%,酸素10%,水素2%,窒素0.5%,ミネラル1.5%である.炭素は大気中から供給され,窒素とミネラルは,人為的な化学肥料以外は土壌中の有機物や岩石鉱物から供給される.これら植物の生長に必要な土壌中の養分は以下のものである.まず,すべての植物の必須3元素としてあげられるカリウム,窒素,リン,そして植物によって必要量が異なる特殊元素カルシウム,マグネシウム,珪酸,塩素,さらに微量元素として鉄,モリブデン,銅,亜鉛である.これらの多くは,水溶性塩類でイオンの形で電荷を帯びて土壌水に溶解している.例えば,K+,NO3-,NH4+,PO4-などである.これらは水溶性であるがため土壌水の移動とともに地下水中へ流出するが,その一部は粘土鉱物や腐食など電荷をもつ物質によって電気的に保持され,必要に応じてイオン交換によって植物根に吸収される.
(2) 土壌の保肥力
 土壌水が中性(pH7)のときの代表的な粘土鉱物と腐植の荷電量を図 に示す.負の荷電量は,陽イオンとの交換容量(CEC)によって,正の荷電量は,陰イオンとの交換容量(AEC)によって表される.単位は乾土100gあたりミリグラム当量[meq](1meqは6×1020個の1価イオンのもつ電気量)で表される.腐食が非常に高い荷電を有すること,一般に負電荷が卓越するが,火山灰からできた黒ぼく,それと同類のアロフェンでは正電荷もかなり存在すことが注目される.黒ぼく土(アンドソル)の荷電のpH依存を図 に示す.土壌の保肥力は荷電状態と密接に関係する.モンモリロナイトや腐食を多く含む土壌の保肥力は高い.作物栽培において消石灰を撒いて土壌をアルカリ性にしようとするのは,負電荷を多くして保肥力を高めるためでもある.ちなみに火山国日本の土壌は酸性で土壌水のpHは,通常の雨水(pH5.7)よりすこし低くph5.2程度であるため保肥力(土壌の化学的性質)は劣っている.畑作物の多くはph6から6.5程度必要とされる.化学肥料を多投しがちなのもそのためである.
(3) 土壌水のpH
 ひどい酸性雨になるとレモン汁のようにpH=3といったものもあり,土壌水のpHも酸性化している.しかし,粘土がもつpH依存荷電によるpH緩衝能によって極端に酸性,あるいはアルカリ性に偏ることはない.作物は一般に酸性よりアルカリ性の土壌を好むが,そのpHの程度は図  のように種によって相当に範囲がある.なお,pH緩衝能の機能を超えて酸が強まるとアルミニウムイオンが溶け出し機能障害を起こすし,逆にアルカリ性に偏るとNa障害や,鉄やりんの結合障害が発生する.

5-4 土壌の保水性と排水性

 粘土や腐植が荷電物質であるため,団粒化が起こる.この複雑な構造によって,土壌は保水性と排水性という一見相容れない特性をもつことができる.図 にみるように,粘土鉱物が多くある細かい隙間は水や養分を保持し,二次団粒より大きな隙間は,雨が降った直後は水で満ちているが2,3日たつと排水され,そこには酸素や二酸化炭素などガスが充足され,植物や動物の呼吸,あるいは土壌温度を保つ役割を果たしている.土壌の隙間を満たす水の物理的特性について見てみよう.
(1) 土は三相構造
 土壌は,酸素,二酸化炭素,水蒸気などのガス,種々の溶質を含む水,そして鉱物や有機物などから構成される.模式的に書くと図のように,気相,液相,固相の三相構造で表される.気相と液相の両者を合わせて間隙と呼ぶ.間隙や,その中に存在する水分の割合を表す指標として,
   間隙比=間隙体積/固相体積
含水比=液相重量/固相重量×100(%)
が定義される.気相がなく,間隙がすべて液体で満たされた状態を飽和状態,水蒸気その他のガスを含む気相が存在する状態を不飽和状態という.間隙に存在する水を間隙水というが,間隙水は飽和状態では通常大気圧より大きい正圧が作用し,不飽和状態では大気圧以下の負圧が作用していることが多い(図  ).
(2)負圧の程度を表す指標
 缶ジュースのフタと底をあけ,周辺に釘で穴をあけたものを作り,その中に土壌を詰め込んでみよう.上から水を十分流し込むと,当初は缶の側面の穴から水が流れ出る(正圧),その後給水を止めると最初は周りかのの水の噴き出しはなくなり底から水がしたたり落ちているが(大気圧),しばらくすると水の流出は全くなくなる(負圧).農地でも同じ減少が起こる.降雨直後の土壌の間隙水は正圧を示し,土壌水は縦横の方向に流れる(浸潤または浸透)するが,2,3日たつと鉛直方向の流れ(重力水)も収まり,以後間隙内は不飽和になり負圧が働くようになる.この負圧の大きさは植物の吸水作用と密接に関係し,pFという指標で表される.pFは,土壌から水を吸引するのに必要な力(サクションともいう)を水柱の高さ[cm]で表し,常用対数値にしたもの,すなわち,
   pF=log10(Δμ)= log10(μ0-μ)
μ0 =基準となる大気圧(純水の水柱高さ=1000 [cmH2O]),μは間隙水のサクションの水柱高さ[cmH2O]である.なお,pFの大きさはテンシオメータという器具で計測される.その大きさの目安を表  にまとめた.
(3) 水分特性曲線
 ある土壌について,横軸に含水比を,縦軸にpFをとると図 のような水分特性曲線ができる.PF値は間隙水の負圧(サクション)を表すが,これは水が移動するときのエネルギーを評価するポテンシャル(7-1節参照)でもある.図 中では,土中水の分類,保水モデル,水分恒数などとの関連も示されている.特定のpF値に対応する含水比を土壌水分点と呼ぶ.農業分野では,圃場容水量,しおれ点がとくに重要で,含水比がその間にある場合にだけ植物は吸水できるので,その間の間隙水を有効水分量と呼ぶ.土の種類によって土壌水分点に対応する含水比は異なり,例えば表 のようである.
(4) 透水係数
 降雨直後,土壌間隙は飽和状態にあり,間隙の中を雨水は鉛直方向に流れ,地下水に到達し,水平方向に移動する.傾斜地では,間隙水は低い方へ移動する.つまり,水は高い位置から低い位置に流れる.位置が高いのはポテンシャルが高いことに相当する.また,水は間隙水圧の大きいところから小さいところに流れる.負圧の場合も-2気圧のところから-10気圧のところへというように大きいところから小さいところ,つまり,湿ったところからより乾いたところへ流れる.
 このような水の流れの大きさは,単位時間,単位断面積を通過する水の体積 [cm3/cm2sec=cm/sec],つまり時間当たりの距離[cm/sec]で表され,フラックスと呼ばれる.間隙が飽和状態のときの土中を流れる水量q[cm/sec]は,2点間のポテンシャルの差ΔΦを距離ΔLで割った動水勾配に比例する(ダルシーの法則),すなわち
  鉛直方向の流れ  q= k(ΔΦ/ΔL+1) [cm/sec]
  水平方向の流れ  q= k(ΔΦ/ΔL) [cm/sec]
この比例乗数kを透水係数と呼び,単位は[cm/sec]である.透水係数は土が飽和していると土によって決まる定数である.動水勾配,つまりポテンシャル勾配が同じなら,フラックスは水の流れる道の管径の二乗に比例する.つまり,透水係数は,粒径によって大きく異なる.飽和透水係数は,砂では10-3〜10-1[cm/sec],粘土では10-7〜10-5[cm/sec]位である.
 不飽和になって負圧が高まると,水の通りやすい大間隙から順次空気が進入し,透水を妨げ,水の存在する小間隙をぬって水が流れるようになるので不飽和時の透水係数は飽和時のそれより大きく減少し乾燥時には10-12[cm/sec]くらいまで小さくなる.(塩沢 地域環境工学159).不飽和状態の透水係数は,ダルシー式のように動水勾配(負圧の勾配)の線形式では評価できないが,不飽和状態でも水は負圧の勾配が駆動力となって移動する.つまり負圧の大きいところ(大間隙や湿った場所)から負圧の小さいところ(小間隙や乾いた場所)に移動する.また,不飽和透水係数は,含水比(あるいはpF)に強く依存し,含水比が小さいほど小さくなる.

6 植物と気象

 植物の生育は気象に強く依存するが,地域の特産物は気候と関係する.気象と気候は違う.気象学(meteorology)は,大気の状態を物理,化学的に記述するものであり,気候学(climatology)は1年を周期として毎年繰り返される最も出現確率の高い大気の総合状態について場所的な差に注目し,地域の気象を総合値として評価する学問である.生物環境学ではいずれもが重要であるが,以下では生物環境に関係する気象学の基礎をまとめる.

6-1 太陽放射

(1) 日射
 絶対温度0度以上の物体から放出される電磁波[W/m2]を放射(radiation)と呼ぶ.表面温度が違う物体が相対しているとき,放射によって高温物体から低温物体へと熱エネルギーが伝達される(放射熱伝達).昼間太陽から地球に伝達される放射を日射(solar radiation)と呼ぶ.大気圏に入るところでの日射の強さは340W/m2,それらは直達日射(直射)S0と散乱日射Sdに分かれる.日射は波長が300〜3000nmの短波放射である.短波放射St(= S0+ Sd)に占める直射S0の割合Sd/ Stは50%(曇天)〜100%(雨天),晴天の日は,太陽高度h0に応じて10%(h0=90°)〜100% (h0=0°)である.この割合は作物群落内の光環境に大きな影響を与える.短波放射に対して温度の低い物体から射出される電磁波は3000〜50000nmの長波放射で,地球や地球表面の物体やガスから放射される.二酸化炭素やオゾンガスはこのような長波放射を吸収射出するため,温暖化ガスと呼ばれる.
 日射量を計る日射計は,直射と散乱日射を合わせた量を測る全天日射計,直達日射計,散乱日射計,波長別日射計(400〜700nmの電磁波だけに感応する光合成有効日射計など),積算日射計などがある.日射量は,[W/m2]を単位とする量で計測される.ある時間の積算値として時間日射量や日日射量は熱量を表すJに換算され,一般に[MJ/m2]を単位として評価される.なお,1W=1J/sである.
 日射は直接的には,植物が光合成を行う上で不可欠なものであり,間接的には温度を高める.日射は農作物の開花期に日照時間ほど影響を与えないが,開花期の日射の強弱は開花状態に大きな影響を与える.また,果実の着色状態とも密接に関係する.(池田 p12-13)
(2) 日照と日長
 日照時間は,直達日射計による2分間隔の計測値から120[W/ m2]の場合を日照ありとしてカウントし,1日の合計として表す.もちろん雨天や曇天の日の日照時間は短くなる.日照時間は,農作業能率に影響する.また,その長短は光合成,ひいては作柄に影響する.さらに,日照時間は農作物の虫害や病害の発生に密接に関係し,病虫害予察の上でも重要である.(池田 p18)
 日長時間は,日の出から日没までの時間,あるいは,薄暮を考慮した0.5時間を加えた時間数で緯度に依存する.日長は植物の発育に影響することが多く,短日植物は日長が短くなる時期に生殖生長段階に入り,長日植物はその逆である.
【参考】発育(development)は,個々の器官ができていくことであり,生長(growth)は個々の器官が大きくなることである.多くの1年生草木は,2つの発育段階を経て生長する.栄養器官(根,茎,葉)が生長(発芽,根の伸長,葉の展開,分枝など)する栄養生長と,生殖器官(花芽,子実,果実)が生長する生殖生長である.そして,生殖生長をする時期は日長によって異なり(日長反応),植物は短日植物,長日植物,中生植物に分類される.長日植物は,夜の長さが一定以上短くなると花芽をつける秋植え植物(コムギ,ダイコン,ホーレン草,カーネーションなど)である.短日植物は,夜の長さが一定以上長くなると花芽をつける春植え植物(イネ,アサガオ,ダイズ,キク,コスモスなど)である.そして日長反応を示さない植物(エンドウ,トマト,キューリなど)は中生植物と呼び,老若度が重要となる. 発育期は,品種によっておよそ決まっているものの(図  はイネの例),各発育段階の日数はその年の日長と温度にある程度影響される.肥培管理や水管理を発育状況に見合った時期に行うためには,発育段階をできるだけ正確に見定める必要がある.例えば,堀江は以下のような式で稲の発育期を予測するモデルを提案している. 図  にイネの発育期を示す.
(3) アルベド
 日射が物質面に当たって反射したとき,反射日射量と下向き日射量の比をアルベドという.地球全体のアルベドは31%,地表面の代表的なアルベドは,森林10〜20%(常緑樹〜落葉樹),各種の畑15〜25%,砂地18〜40%,土壌5〜40%(暗黒,湿潤,明るい,乾燥),水面3〜100%(天頂角),海30〜45%(波),雪面40〜95%(古雪〜新雪).これらの値は1日のうちでも太陽高度により異なる.

6-2 蒸発と蒸散

(1) 蒸発
 液体表面または液体を含む土壌から液体が気化(水蒸気に変化)することを蒸発という.蒸発Eは2点間の水蒸気濃度の差に比例し,次式で表される.
  E=kh(ρs-ρa) (1)
ここに比例定数khは2点間の空気の混合速さを表す係数で風速の関数,ρaは水蒸気の濃度,ρsは地表面付近の水蒸気の濃度で,飽和水蒸気濃度ρ*と相対湿度hrを用いて以下のように表される.
  ρs= hrρ*      (2)
相対湿度hrは土壌の水分ポテンシャルΦwが負になるまではほとんど1.0のままで蒸発量は上空の水蒸気濃度に依存する.しかし,土壌が乾き,pFが4.5より大きくなると相対湿度hrは急激に小さくなり,蒸発は急減する.しかし,灌漑などにより地下水面が高いと,蒸発は極度に低下するが,地表面のΦwが低いため地下水付近の土壌水が上方へ移動し,ときに塩類上昇を起こす.
(2) 蒸散(農業気象・環境学p34)
 植物の葉(気孔)からの蒸発を蒸散と呼ぶ.気温が高い昼間は大気から顕熱を受ける一方,蒸散による潜熱(580cal/g)によって葉温を調節する.気温が下がる夜間には,葉温のほうが高く,葉から大気に顕熱が流れる.蒸散量は,葉温,風速,日射,湿度の関数であり,土壌水分量によっても変わる.蒸散はつぎの特徴がある.根からの吸水がある限り気孔が開き蒸散が維持されるが,吸水できないと気孔が閉じ,温度が高くても蒸散はない.植物体内の水ポテンシャルは土中の水ポテンシャルほど広範囲に変動しないので蒸散は植物の水ポテンシャルに依存しない.
 まとめると,@吸水がある限り気孔は開き,蒸散が維持される,A土壌が乾燥して土中の水ポテンシャルが小さくなると気孔を閉じ蒸散を減少させ始めるが,その特性は蒸発量によって異なる.すなわち,もともと土壌が十分湿って蒸発量が大きいとき,pF<1.5の間は蒸散が一定し,pf>1.5で徐々に蒸散が減少する.一方,土壌が乾燥し蒸発が小さいときは,pF<4.2つまりしおれ点までは蒸散が一定し,しおれ点を越えると蒸散が徐々に減少する.
(3) 蒸発散(農業気象・環境学p62)
 蒸発と蒸散を合わせて蒸発散量と呼び,最低限これだけの水は補給されねばならない.日本の水田の蒸発散は1日に最大7mm程度で,畑地では作物によって異なるが,これ以下のことが多い(地域環境工学p110).蒸発散量の推定は難しく,ライシメータで測定するのがよい.推定式としては,耕地における可能蒸発散量Ep(蒸発散位)としてペンマンの式がある.
Ep=0.35(ρ*-ρa)(0.5 + v2/161) [mm/day]
ここで,ρ*は平均気温での飽和水蒸気圧 [mmHg],ρaは平均水蒸気圧 [mmHg],ρa/ρ*=相対湿度,v2は耕地の地上2mにおける平均風速[km/day]である.同式によると日平均風速1mのときv2=86.4km/dayであるから蒸発散量は無風のときのおよそ2倍になる.蒸発散量における風の効果が大きいことが分かる.

6-3土中の温度

(1) 土中温度を左右する因子
 土壌は太陽放射を受け,一部を反射する.土壌表面からの蒸発による潜熱があり,夜間には土壌から大気への顕熱伝達がある.また,地殻からの熱フラックス(50nW/m2)があるため地表面より10m以上深部で凍結は起こらない.土壌生物の呼吸熱(0.6W/m2)も土中温度を高める要因となっている.このように土中温度は種々の要因で決まるが,基本的には太陽放射に左右され,季節変動や日変動をしている.土中温度は,植被のほか,放射に対する反射率(アルベド)や土壌熱伝導率に影響する土色,含水量,土性(空気,水,有機物や腐植,植物根の含有率)などの土壌の種類や状態によって相違する.
(2) 土中温度の影響
 植物の生長点が地表付近にある植物も多く,土中温度は植物の発育に影響する.そこで,品種,作付時期,施肥時期を決める上で,土中の温度特性を知っておく必要がある.また,土中温度は微生物の活動にも影響する.適度な活動は有機物の分解を促進し,植物への栄養供給にとって良い条件となるが,土中温度が30度を越えると微生物活動が活発になりすぎて,土壌有機物や腐植を必要以上に分解するため土壌の劣化をきたす.日本の水田は湛水により夏季の地温上昇を抑制し,土壌の劣化を抑制しているといえる.
(3) 土中の温度変化
 図  は,水田の地温(深さ5cm)と気温の変化を示したものである.湛水していても7月中頃までは気温より地温の方が高い.以後は,水稲の葉が生長し,日射を遮断するため地温は気温と同じ程度で推移することがわかる.日最高温度は,放射が最大になった後も土壌は空気から引き続き放射熱を吸収するため南中の2〜3時間あとに,また年最高温度は夏至の4〜6週間後に生じる.深さ方向の変化については,昼間太陽放射のあるときは地表面のほうが,深部より高温となるが,夜間は大気への顕熱伝達などによって地表面に近いほど低温になる(図  ).また,植被が地表面を覆うと放射の5%程度しか地中に熱が届かないために,温度の日変化は地表下70cm位でなくなり,年変化は地表下10〜20mでなくなる.

6-4 植物の生育と温度

(1) 植物の温度要求度
 植物はある温度以上でないと生長が阻害される.この生育に必要な限界温度を基準温度と呼ぶ.通常基準温度tc は10℃で,麦類などでは5℃である.温度に関する気候指標として,日平均気温が基準温度以上の日について日平均気温を合計した有効積算温度ΣT10(単位は度日,Degree Day)がある.図  では,ΣT10によって寒冷地帯から温暖地帯の分類がなされ,対応する適切な作物の目安が示されている.ΣT10 >6500では亜熱帯性あるいは熱帯性地帯である.
(2) 温量指数(温かさ指数)
温量指数は,月平均気温5℃以上の月について5℃と気温差を積算した値で,植物分布や農業生産力を評価するために使われる.温帯の温量指数は50〜180である.
(3) 植物の生産力
 年間に生産されるバイオマス(乾物重量)[ton/her]によって植物の生産力を評価する.これは,総一次生産力GPから呼吸分を差し引いた純一次生産力NPによって表される.NPがGPに占める割合αは,森林で20〜40% ,多年生草本で50〜55%,一年生草本で55〜70%とされている.NPは,年平均気温や年降水量によって推定される.内嶋らは,NPを次式のように純放射量の年間値,蒸発の潜熱,年間降水量の関数として与え,図  のようにわが国の植物生産力マップを作っている.
 NP=
なお,わが国における年間の総バイオマスは360-390Mtonと見積もられている.

7 植物の生理・生態

【別記】独立栄養生物である植物は,炭酸同化や窒素同化によって大気圏や土壌圏の物質から炭水化物やタンパク質を生成し,食物連鎖を通して従属栄養生物である動物がこれら植物有機物を摂取し,最終的に動物遺体や植物残滓が土中微生物によって無機態の窒素に還元される.土壌生態系におけるこのプロセスについては既に述べた.(図6-4)
ここでは,土壌−植物-大気系SPAC(Soil-Plant-Atmosphere-Continuum)における視点から植物の生理についての基礎的事項を述べる.

7-1 植物の吸水と体内の水移動

(1) 水ポテンシャル
 水は高いところから低いところへ流れる.高いところの水は自由エネルギーが高いからである.単位体積当たりの水の自由エネルギーを熱力学では水ポテンシャルという.ポテンシャルの単位は水柱高さ(cm),あるいは圧力(Pa)で表される.水ポテンシャルの大きいところから小さいところへ水は移動する.ところで,水ポテンシャルは色々な形で存在する.身近な例では高いところから低いところへ流れる水移動があるが,これは位置ポテンシャルによる.また,パイプ内の水などは圧力が高いところから低いところへ流れ,これは圧力ポテンシャルによる.水分が非常に少ない土壌や植物体内の毛細管では,毛管力の働きや水分子の吸着作用によって土壌表面や細胞壁面に水膜が吸着し,移動しにくい.従って水は間隙の大きいところから小さいところに流れる.これはマトリックポテンシャルで評価される.また,水中に溶解するイオンなどの溶質が多いと土壌や水とイオンが電気的に引き合い,水が移動しにくくなる.これは溶質(浸透)ポテンシャルで評価される.純水の溶質ポテンシャルは大きく0である.マトリックポテンシャルや溶質ポテンシャルは土壌や植物体内では負の値をとる.
(2) 植物の吸水力と水移動
 不飽和土壌の水ポテンシャルは主としてマトリックポテンシャルに左右されpF=1.5〜3.0に対する水ポテンシャルは-3kPa〜-100kPa程度である.植物体内の水ポテンシャルはそれより小さく,大気の水ポテンシャルはさらに小さい(-100Mpa程度).よって,昼間気孔が開いていると水ポテンシャル勾配にそって水ポテンシャルの高い土壌から,より低い根,茎,葉そして気孔をへて大気へと水が上昇し蒸散は維持される.また,葉肉細胞の水ポテンシャルは維管束内のそれより小さいので水は維管束の通道組織から葉肉細胞に移動する.夜間気孔を閉じると植物体内の水ポテンシャルは大きくなり吸水は少なくなる.昼間でも,土壌がしおれ点(pF=4.2)付近まで乾燥すると,土壌の水ポテンシャルが植物体内のそれより小さくなり植物は吸水できなくなり萎れる.水ポテンシャルは植物の上部ほど小さく,高い木の頂上では-1500kPa程度にまで落ちることがある.これはおよそ植物が吸水できる限界で,しおれ点の負圧に対応する.
 水が木部を上昇する駆動力となる水ポテンシャルの主成分は蒸散の状態などによって違ってくる.主成分は,蒸散が盛んで木部に水が少ないときはマトリックポテンシャル,水が周辺にまで拡散しているときは圧力ポテンシャル,そして土壌が湿り大気湿度が高く蒸散が少ない状態では根の木部に溶質が蓄積するため溶質(浸透)ポテンシャルである. 蒸散が盛んなときは植物体内の水分が減り,マトリックポテンシャルが減少するので吸水は盛んになる.夜に気孔が閉じ蒸散がなくなると体内水分が多くなり吸水が減る.また土壌が乾燥すれば土壌水のマトリックポテンシャルが減少し水の上昇は少なくなる.水の流れが極端に減っても土壌から頂部の木部まで水が連続して流れるのは,水の凝集力による張力が働いているためである.非常に高い樹木や蔓性の植物体内でも水が上昇することを考えればよい.通道組織中を根から茎を通って葉まで連続した水柱となっている水は通動組織中で張力を受ける.ところが水は大きな凝集力を持っているので,水柱が切れず根から葉に向かって引き上げられるというわけである.
(3) 葉内細胞への水移動
 葉内木部を中心とするアポプラストから細胞質やその中の液胞などへの水移動は以下のメカニズムによる.水の出入りがあるアポプラストでは,溶質の濃度は一般に低いので溶質ポテンシャルはゼロに近い.よって,細胞壁に沿って生じるマトリックポテンシャルφmによって水ポテンシャルは左右される(蒸散のない夜間でも-100kPa程度).一方,液胞では溶質が高濃度であるため溶質ポテンシャルφsが大きく(-500〜-3000kPa),逆にφmは無視できる大きさである.通常,アポプラストの水ポテンシャルは液胞のそれより大きいので液胞への水移動が起こり次第に液胞が膨張する.一般に細胞質の水分は液胞のそれと平衡状態にあるので液胞の圧力が高まると細胞質全体が膨らみ,葉全体が張りをもつことになる.細胞質内の水ポテンシャルはある値に達すると水の流入はなくなり,またアポプラストの水ポテンシャルが低くなると流入は止まる.細胞質内の圧力が低下すると細胞が収縮し,葉が枯れ始める.
 根の吸水メカニズムは蒸散の多寡によって異なる.蒸散が少ないときは,根の木部に溶質が蓄積して浸透ポテンシャルが低下することによる浸透的吸水が起こる.蒸散が盛んなときには葉内の水ポテンシャルの低下が根の木部に伝達され,土壌の水ポテンシャルとの差が大きくなることによる受動的吸水が起こる.

7-2 無機養分素の吸収

 葉面散布によって微量元素を供給することはあるが,大部分の養分は無機栄養として根から吸収される.一般に無機栄養は土の中で水やうすい酸に溶け,窒素はアンモニウムイオンか硝酸イオン,リンはリン酸イオン,カルシウムはカルシウムイオンなどのようにイオンの形で存在する.土壌の養分供給能はイオンの種類や土壌に吸着されている程度によって異なる.リン酸は強く吸着されており,その大部分が不溶性の形態で存在するため植物による吸収が難しい.これと反対に,硝酸塩は非常に水溶性にたけ,土壌にほとんど貯留しない.よって,有機態の窒素やアンモニア態窒素の微生物分解によるところが大きい.
 土壌水が吸水の過程で根のほうへ移動するとき,無機養分であるイオンも水と一緒に移動する結果,養分が吸収される.まず,蒸散に伴う水ポテンシャル勾配にそった移動により根圏域に移動し,根圏域から植物根へは,根の表面でのイオン吸収によって生じる濃度勾配に従った拡散によって移動する.土壌中に占める根の面積は1%程度と狭いが,根がイオンを吸収すると濃度が低下し,それによって拡散が生じるのである.
 植物はその細胞膜から無機栄養素を透過させて吸収する.溶液からのイオン吸収には大きなエネルギーを必要とする.光合成によるデンプンは糖分に変えて根に送られ,それが養分吸収のためのエネルギー源となる.なお,土壌コロイドに吸着されている養分は,根毛から出される水素イオンとイオン交換されて吸収される.
 無機栄養素はその種類によって土壌内での動態も違えば,根から吸収する方法も異なる.詳細は文献[15]の3章を参照されたい.

7-3 光合成のメカニズム

 植物は太陽光エネルギー,根から供給される水と,気孔に取り込んだ大気中の二酸化炭素から糖を生成し,糖から炭水化物や脂質をつくる.この作用を炭酸同化という.また,葉中の炭水化物と根から吸収される土中の窒素成分からアミノ酸,そしてそれを合成してタンパク質が作り出される.これを窒素同化という.(図  )
 光合成のメカニズムは,式(1)の化学反応式で表される.
(1)
同式から分かるように炭酸同化物1モルにつき,およそ2.82MJのエネルギーが必要とされる.太陽放射のおよそ1.5%が光合成に利用されることを考慮すれば同化物1トンを生成するのに1.04×106MJの太陽エネルギーを必要とする.
 光合成に必要な波長は可視光線の中で420nmおよび660nmを中心とする電磁波である(図  ).前者の光波によって葉緑素内のチラコイド膜中に存在する酵素であるクロロフィルaが,また後者の光波によってクロロフィルb(カロチノイド酵素)が活性化される.活性クロロフィルからのNADPとADPが炭酸同化に必要なNADPH2とATPを生成する.すなわち,
(2)
(3)
気孔(ストロマ)に取り込まれたCO2は気孔内にあるカルビン・ベンソン回路(C3回路とも呼ばれる,図  )で生成されたリブロース二リン酸と結合し炭素3個を含むグリセリン酸リン酸となる.これが, ATP とNADPH2によりC3の中間体を経てグリセロアルデヒドリン酸となる.すなわち,
(4)
グリセロアルデヒドリン酸のうち1/6はブドウ糖になり,5/6はリブロース二リン酸に戻るという回路を形成する.式(2),(3),(4)の辺々を足しあわせると式(1)になるが,これが光合成の基本式である.

7-4 C3植物・C4植物・CAM植物

 イネとトウモロコシを同時期に播種しても,2,3ヶ月後,トウモロコシはイネの数倍の生育量を示す.サボテンやアロエは,温度や水環境が苛酷な地で生育でき,その生長速度はイネやトウモロコシより遅い.このような違いは,光合成機構の違いによるもので,つぎの3つの型に分類される.
(1) C3植物
 イネ,コムギなど麦類,ダイズなどすべてのマメ科植物,バレイショなどイモ類がこれに属する.リブロース2リン酸と炭酸ガスを結合させ,C3化合物のグリセリン酸リン酸をつくるカルビン・ベンソン回路(C3回路)だけをもつ植物である.
(2) C4植物
 トウモロコシ,サトウキビ,ソルガム,ハゲイトウ,エノコログサ,アワ,ハトムギ,バミューダグラスなど生長の速い植物がこれに属する.C3植物に比べて,強光・高温条件下で生育するのが特徴で,そのような環境では光合成が盛んになるため炭酸ガス濃度が低下する.そのため,C3回路に加えて,炭酸ガス濃縮回路(C4化合物として濃縮するためC4回路とよぶ)をもつ.また,C4植物は,維管束鞘細胞内に葉緑体をもつ.
(3) CAM植物
 CAM(Crassulation acid metabolism),すなわちベンケイソウ型酸代謝は,沙漠など乾燥地で生育するサボテンやパイナップルなど多肉,耐乾性植物に見られる代謝である(ベンケイソウ科の植物でこの研究がすすんだためCAMという名称が一般に用いられている*).維管束鞘のような特殊な細胞はないものの,C4植物と同じC4回路をもつ.違いは,炭酸ガスの取り込みと光の吸収が同調しない点である.すなわち,日中は蒸散を防ぐため気孔を閉じているが,夜間に気孔を開け炭酸ガスを取り込み,昼間にその炭酸ガスを利用して光合成を行う機構をもつ.(* 作物の生理・生態学大要 p83池田武編 養賢堂)

7-5 光合成と環境条件

(1) 光の強さと光合成速度
 温度と炭酸ガス濃度が一定の条件下を考える.まず,光が弱いときには光合成による炭酸ガスの吸収より呼吸による炭酸ガスの放出のほうが多い状態にあるが,光強度が強くなるとともに炭酸ガスの出入りが見かけ上0となる.このときの光の強さを補償点と呼ぶ.光強度がさらに強くなるにつれ光合成速度は上昇し,光の強さがある値(光飽和点)に達すると光合成速度は一定になる(光飽和).一般に,弱光下では,光の強さに比例して光合成速度が大きくなり,温度の影響は少ない.一方,強光下では,光飽和に達するので光合成速度は一定となるが,温度を変化させると光合成速度も変わる.
(2) 温度と光合成速度
 弱光下の光合成速度は温度によってほとんど変わらず,高温で少し低下する程度であるが,強光下では温度が30度程度で光合成速度はピークとなり,温度がそれ以上でも以下でも光合成速度は低下する.
(3) 二酸化炭素と光合成速度
 炭酸ガス濃度とともに光合成速度は大きくなるが,濃度がある程度高くなると一定になる.光合成速度が炭酸ガスの濃度とともに上昇する傾向は,強光下のほうが強い.
(4) C3植物とC4植物の光合成速度の違い
 C4植物では弱光下でも光合成は行われるので炭酸ガスは概ね吸収されるため補償点は,C3植物より小さくなる.光の強さとともに光合成速度が増える割合は,C4植物のほうが大きい.光合成速度がピークになる温度はC4植物のほうが高い.炭酸ガス濃度が高まるとともに急速に光合成速度も高まる傾向は,C4植物のほうが強いものの,ある程度炭酸ガス濃度が高くなると,C4植物の光合成速度は限界に達するのに対して,C3植物の光合成速度は高まりつづける.
(5) 地球温暖化と光合成速度
 炭酸ガス濃度の増加は光合成速度を上げるが,炭酸ガスは温暖化ガスでもあるので,ある程度高温になると光合成速度が低下し始めることや,高温下での害虫発生などが予想され,炭酸ガスの上昇は必ずしも収量の増加を期待できない.

7-6 呼吸

(1) 呼吸基質
 呼吸基質の主なものはデンプンあるいは多糖類の分解産物であるグルコースであるが,生長の時期や器官によって,それ以外にも多くの炭水化物や,タンパク質や脂肪の分解物が呼吸基質になりうる.呼吸において放出される二酸化炭素と吸収される酸素の比(CO2/ O2)を呼吸商と呼ぶ.炭水化物が呼吸商となる場合は,それが完全に分解されると呼吸商は1となる.
C6H12O6+6O2 → 6CO2+6H2O
しかし,脂肪やタンパク質が呼吸基質となる場合,呼吸商は1以下となる. 呼吸によって基質が分解される過程で多量のNADHやNADPHなどの還元物質はミトコンドリア内膜の電子伝達系により酸化されてATPを生成する.
(2) 生長効率と呼吸
 図 は器官別の呼吸速度である.生育初期は根で非常に高い.根の生長速度が葉伸などに比べて遅いので,養分吸収に要する呼吸が大きいためと考えられる.生長が進むにつれ呼吸速度は低下し,その低下は根で著しい.生殖生長期では子実の呼吸が大きな割合を占める.
 作物の生長量は光合成量と呼吸量のバランスで決まる.生長効率Gとして
  G=ΔW / (ΔW +R)
ΔWは一定期間の乾物増加量,Rは呼吸量.種々の作物におけるGを調べたところ,栄養生長期には,Gは60%程度,生殖生長期に入り成熟が進むころには徐々に低下する.これとは逆に,光合成によって植物が吸収した炭素は,栄養生長期に約40%,生殖生長期には半分以上が呼吸によって失われる.というわけで,後半は呼吸が多く,生産効率が低下する.全期間を通じて,そう生産量の半分近くが呼吸によって消費される.
 Thornleyは呼吸量を,植物体をつくるのに必要な生長呼吸量と,植物体を維持するのに必要な維持呼吸量に分けて表した.
R= gP + mW
ここにRは,1日の総呼吸量,Pはその日の総光合成量,Wはその時点の乾物重量,gは生長係数,mは維持係数.生長係数は1gの植物体を生成するために放出される二酸化炭素量で,0.1〜1.2g[CO2/g](トウモロコシ0.38,イネ0.34〜1.17)と範囲が広く,地上部より根で大きい.維持呼吸係数は,10〜60mg [CO2/g]の範囲であるが,種間,部位間で違いが大きい.
(3) 環境条件と呼吸速度
 単位の乾物重を生産するのに必要な単位時間当たりの酸素量を呼吸速度という.呼吸速度は,温度,酸素や二酸化炭素濃度に影響されるが,ここではもっとも影響が大きい温度について述べる.10〜35℃の範囲では温度が10度上がると呼吸速度は2倍くらいになるが,それ以上高温になると低下する.根のほうがこの低下し始める温度は低い.また,高温下で生長した植物より,低温下で生長した植物の呼吸速度のほうが高い.

7-7 光合成同化産物の転流と蓄積

(1) ソースとシンク
 葉や根を通じて環境から獲得した炭素,窒素,水などの資源は,それを必要とする組織に輸送・分配され,生長のためのエネルギー源や体構成素材,機能維持素材として利用される.資源の分配過程は体内における供給器官(ソース)の能力と,受容器官(シンク)の能力との相互関係によって支配される.また,ソースとシンクの距離,維管束の連絡具合,輸送経路における一時貯蔵システムの容量にも影響される. ソースとシンクを結ぶ師管のネットワークは連続していて,途中に一方向性の弁は認められない.通常は,複数のソースとシンクが同時に存在している.基本的にはどのソースからどのシンクへも光合成産物は輸送される.長距離輸送システムの特徴は
@ 局所的なソースとシンク間に維管束を介した優先的な輸送上の関係があるが固定的ではない.
A ソース〜シンク間の輸送速度は両端の師管の溶質の濃度差に依存する.
B 輸送途上の抵抗は比較的少なく,輸送の大きな妨げにはならない.
C 輸送の最大のネックは,転流ラインに同化物を積み込むところと積み降ろすところにある.
(2) 転流
 光合成速度がある値以上になると光合成速度と同化産物の輸出速度との間に正の相関性が見られる.また,葉におけるスクロースの濃度と輸出速度の間にも正の相関性が見られる.輸出用の糖濃度の上昇が師管への積荷を活発にすると考えられる.しかし,葉肉細胞内の炭素の流れにはいくつかの分岐やプールが存在し,光合成速度と輸出速度とは単純には比例しない.また,輸出速度は糖濃度の変化によって直接的に影響される一方,シンク器官の情報がホルモンレベルの変動を通じてソース器官に伝達され間接的に抑制されている可能性も実験によって指摘されてきた.
(3) 蓄積
 同化物が蓄積されるシンクは,生長シンクと貯蔵シンクに大別される.茎頂や根端などの分裂組織が生長シンクであり,子実や果実,貯蔵根,塊茎や塊根が貯蔵シンクである.同化物の貯蔵形態は種によって異なる.デンプン(ジャガイモの塊茎,サツマイモの塊根),糖(スクロース,グルコース,フルクトースで,サトウキビの茎,テンサイの主根,柑橘類の果実)など.イネでは可溶態のデンプンといったようにまちまちである.シンク細胞は転流してきた同化産物を化学的・空間的に分離し,シンク細胞質内の同化物濃度を低く保つ.
 多くの植物では,シンクの容量に見合った同化物がソースから転流され,大きなシンクは小さなシンクより遠くのソースから同化物を集積できる.また,あらかじめソースに見合う多めの収量シンクを作っておき,途中の段階でソースの供給力に見合うように調節している.

7-8 環境ストレス

 植物はその種に応じて生理的に最もよく生長できる環境要因の範囲があり,この範囲を超えると生長は阻害され,収量も減少し,障害・枯死にいたる.このように不適な環境要因によって植物が生理的に不活性な状態にあることを環境ストレスといい,水ストレス,温度ストレス,塩ストレスなどがある.
(1) 水ストレス
 正常な状態では蒸散速度と吸水速度は等しく,吸水速度は土壌水のポテンシャルΦsと葉の水ポテンシャルΦLの差ΔΦに比例する.蒸散速度が大きくなってΦLが低下するとΔΦが大きくなり,吸水速度は大きくなる.しかし,土壌への水分補給がなく土壌が乾燥してくる,あるいは地温低下で根が冷え吸水能力が低下するとき,あるいは,高温低湿度あるいは強風時で蒸散速度上昇の場合,蒸散速度が吸水速度を上回る状態,水ストレスが発生する.この状態になると気孔を閉じ,光合成速度や葉面積拡大速度も低下する.ストレスが激しい場合には葉が巻き上がったり枯死する.
 気孔の閉じ始める葉の水ポテンシャルは,イネ:約-0.2Mpa,トウモロコシ:-0.3〜-0.35Mpa,ヒマワリ-0.7Mpaなど作物の種類や生育条件によって大きく異なる.気孔の閉じる程度も大きくことなり,イネは気孔の感受性が高い作物で,蒸散速度と吸水速度の差は他の作物に比べて極めて小さい.
 図  は,ダイズの葉の水ポテンシャルに対する葉面積と光合成の速度を示したものである.ポテンシャルが-0.4Mpa以下になると葉の生長は急激に抑制され,-1.2Mpaでほとんど停止する.それに比べると,気孔の開度や光合成速度は水ストレスの影響をうけるポテンシャルはさらに低く,-2.0Paレベルでも正常な場合の30%くらいの値を保つ.
(2) 塩ストレス
 高温で降水量の少ない地方,海水の影響を受ける地方,塩類集積土壌では,過剰な濃度の塩によって生育や収量が抑制されるが,これを塩ストレスと呼んでいる.塩ストレスに対する抵抗性は種によって異なり,オオムギ,ワタ,サトウダイコンなど抵抗性の強い塩生植物と,イネ,トウモロコシ,インゲンマメのように抵抗性の弱い中生植物に分類される.
 塩ストレスは細胞の伸長と分裂,タンパク質の合成,光合成や乾物生産すべての生育過程で生長を抑制するが,生育時期と塩ストレスに対する感受性は,種によって異なる.例えば,イネやトウモロコシはとくに栄養生長期に,オオムギやワタは生殖生長期に生育が阻害されやすい.
 塩ストレスによって生長が抑制あれる理由としては,根圏の溶質ポテンシャルの低下によって吸水が抑制されること,この場合に作物が浸透調節(塩化ナトリウムを生長に影響が少ない部位に集積する)を行い細胞内の膨圧を維持しようとし,体内の浸透ポテンシャルの勾配が壊れること,塩そのもの,あるいは塩に含まれる特定元素が生育阻害を起こす,などが考えられている. 塩ストレスを回避ため,中生植物ではナトリウムを地下部の木部に集積させる機構をもっている.塩生植物では細胞内の液胞に隔離蓄積する機構や塩腺から過剰な塩を体外へ分泌したり,組織を多肉化する機構をもつ.
(3) 温度ストレス
 植物は,最低温度から最適温度に向かってシグモイド曲線様に生長がよくなる.零度以下にさらされると凍結障害がでる.熱帯・亜熱帯性植物では,最低温度付近(0℃〜10℃)で低音障害がでる.低温ストレス下にあっても,極度の低温で死ぬ場合を除いて,萎凋や白化などの低温障害は表れず,常温に戻った後に表れる.最低温度と最適温度の間でも比較的低い温度の時期が長く続くと,酵素反応の低下によって光合成の阻害されたり,イネでは穂ばらみ期と開花期に冷温ストレスを受けると花粉障害をおこし不稔となる.冷温障害が起きる.
 高温障害は,最適温度よりやや高温の期間が長く続いて代謝が不調和となる障害と,最適温度よりかなり高い温度に短時間ながらさらされると細胞膜の障害がある.

問 題

1 農業の工業化とはどのようなことを言うのか? また,工業化した農業はなにが良くないか?

2 地球上の陸地面積は地表面の21%,およそ1.5億km2である.その陸地を,農用地と森林,そして砂漠や市街地が3分している.近年,人間の都市への移動に伴い都市が拡大し,あるいは都市活動によって,森林や農地が減少し,砂漠が増大しつつある.ます.熱帯林は,年間日本の国土面積3770万haの45%にあたる1700万haが減少し,砂漠化は日本の農地面積500万ha以上のレベルで進行している.21世紀に生きる者としてこのことをどのように受け止めているか?

3 地球上の水は循環している.なぜ,そういう事が起こるのか,また年間どれ位の水量が大気中や地中を循環しているか?

4 地球規模での水循環のメカニズムを図示しながら説明せよ.そして,現在環境上問題となっている事柄をコメントせよ.

5 地球規模での炭素循環のメカニズムを図示しながら説明せよ.そして,現在環境上問題となっている事柄をコメントせよ.

6 地球規模での窒素循環のメカニズムを図示しながら説明せよ.そして,現在環境上問題となっている事柄をコメントせよ.

7 生命活動にとって重要な元素,炭素や窒素は大気圏と地圏,水圏を循環している.

(1) C(炭素)サイクルとN(窒素)サイクルのメカニズムと大まかな量がわかるように図示せよ.
(2) CサイクルとNサイクルはどのような点で違うか.2点箇条書きにせよ.
(3) 自然のバランスがとれた物質循環がここ数十年の間に壊れつつあります.それはどのようなことを言うか?

8 畑圃場にくらべて湛水状態の水田圃場では,土壌内に炭素が蓄積されやすい.その理由を述べよ.

9 地域で発生する有機物や農牧地の土壌内無機化窒素量を適正にするにはどのようにすればよいか.また,講義中に事例としてあげた牛久沼や取手市では,適正には管理しきれていない.それはどのような理由からか.

10 茨城県の牛久沼集水域と取手市の有機物や窒素についての調査結果に関する次の問いに答えよ.
(1) 両地域の農地還元有機物と環境負荷の中身にどのような違いがあるか?
(2) 両地域のリサイクル率はそれぞれ76%と63%と試算されています.これを100%まで上げることによって化学肥料の投入量を押さえることができます.しかし問題は簡単ではない.両地域それぞれに,どのような問題があるか?

11 地球規模,そして地域の物質循環について数行程度にまとめよ.

12 「物質循環」,「有機農業」,「LISA」をキーワードにして「持続可能な農業」について述べよ.

13 粘土鉱物はどのようにしてできるか.

14 土壌の構成物質のなかで最も重要な二次鉱物(粘土)に関する以下の問いに答えよ.
(1) 粘土が,砂やシルトなどと物理的,化学的,生物的に異なる点を述べよ.
(2) 粘土は植物にとっての養分を保持する機能をもつ.図を用いて,そのメカニズムを説明せよ.

15 粘土,砂,土壌の違いを説明せよ.

16 粘土や腐植の特性を説明せよ.

17 団粒構造はなぜできるのか.またそれによって土壌にどのような利点が生まれるか.

18 pFとはなにか.

19 土壌の水分特性曲線の概略を図示し,土壌水分点を明記せよ.

20 土の保水,排水機能に関する以下の問いに答えなさい.
(1) 土は保水,排水という相反する二つの機能をもっている.それは土のどのような構造によって達成されるものか? また,なぜそのような構造をもち得るか?
(2) 土壌間隙は水で飽和されている場合と不飽和の場合がある.両者の間隙水圧にどのような違いがあるか?
(3) pFと含水比を引用して土中の水分特性を説明せよ.その際,ほ場容水量やしおれ点にも言及せよ.

21 土壌の物理的,化学的,生物的特徴を述べよ.

22 日射,日照,日長を説明せよ.

23 日射,日照,日長と植物の生育,あるいは農業との関係を述べよ.

24 長日植物と短日植物はなにが違うか,また代表的な植物を2つずつ挙げよ.

25 土壌中のpFが4.5以上になると,蒸発量が急減し,土壌水が上昇をはじめる.それはなぜか.

26 水の自由エネルギーを評価する水ポテンシャルを,位置ポテンシャル以外に3つ挙げよ.また,その中で根圏域にある土壌水の駆動力は主としてどれに対応するか答えよ.

27 植物の吸水のメカニズムを簡単に説明せよ.

28 炭酸同化物1モルにつき,およそ2.82MJのエネルギーが必要とされる.太陽放射のおよそ1.5%が光合成に利用されることを考慮すれば炭酸同化物1トンを生成するのに1.04×106MJの太陽エネルギーが必要なことを計算によって示せ.ただし,炭水化物1モルは180gとする.

29 植物の生長は炭酸同化(光合成)と窒素同化に基づく.その仕組みを簡単に説明せよ.

30 光合成のメカニズムを示せ.

31 C4植物とCAM植物の光合成機構はC3植物のそれとどのように違うか?

32 光合成速度は,温度,二酸化炭素濃度によってどのように違うか.

33 光合成速度は,光の強さ,温度,二酸化炭素濃度に影響される.C3植物とC4植物の両者を区別して,その関係を簡単な図に示せ.

34 地球温暖化が進行したとき,光合成速度はどうなるか.C3植物,C4植物にわけて述べよ.また,収量を含めてどのような問題が発生すると思われるか?

35 植物の呼吸と生長効率について述べよ.

36 光合成同化物はどのようなメカニズムで転流され,蓄積されるか.

37 環境ストレスにはどのようなものがあるか.また,それらの特徴を述べよ.

38 「水ストレス」について少なくとも五つの用語,すなわち「水ポテンシャル」,「吸水速度」,「蒸散速度」,「気孔」,「光合成速度」を用いて説明せよ. 39 植物の生長を評価するには,(a)発育期,(b)生長量(乾物量やLAIなど),(c)吸水・蒸散,の各状態をみることが重要である.これら三つの状態と関わる主たる環境要因を,(a)(b)(c)各々について列挙せよ.

参考文献

[1] 地域環境工学概論,文永堂
[2] 新たな時代の食糧生産システム,システム農学会編
[3] 新しい農業気象・環境の科学,養賢堂
[4] 土壌環境,学会出版センター
[5] 土の物理学,森北出版
[6] 植物生産生理学,朝倉書店
[7] 農業情報化のキーワード,農林統計協会
[8] 池田武編,作物の生理・生態学大要,養賢堂(持続的農業)1995
農業生産の側面,生態学的側面を重視,本書が扱う多くの項目の専門書
[9] 嘉田良平,環境保全と持続的農業,家の光協会 1990
[10] 坪井八十二編著,農業気象学,養賢堂 1990
[11] 坪井八十二著,気象と農業生産,養賢堂 1986
[12] 長野敏英他,農業気象学・環境学,朝倉書店,1986
[13] 星川清親編著,植物生産学概論,文永堂出版 1993
[14] 大後美保,新編農業気象学通論,養賢堂 1980
[15] A.H.Fitter,R.K.M.Hay著,太田安定他共訳,植物の環境と生理,学会出版センター 1985
本書で述べている項目についての詳細が分かる専門書
[16] 半谷高久・小倉紀雄共著,水質調査法第3版,丸善 1995
13ページまでに水の循環や河川地下水の流速など資料豊富