開催趣旨

真珠養殖発祥の地として110年の歴史を持つ英虞湾は,海底のヘドロ化,有害赤潮, 感染症などの様々な環境問題に悩まされ続け,真珠養殖の売上高がピーク時の1/10に 落ち込んだ状態が続いている.このような状況を受けて,三重県は,科学技術振興機 構の公募型研究事業に三重県地域結集型共同研究事業(閉鎖性海域の環境創造プロジェクト)を応募し,2002年12月に採択され,5年間で約25億円の研究費を投入する大規模研究プロジェクトを進めている. 本プロジェクトは,地域連携と問題解決をキーワードとして,地域の大学,企業,研究機関に加えて地域団体や漁業者などが連携した研究開発を推進していることに特色があり,リアルタイム観測システム,総合的な現地観測,環境動態シミュレーションを駆使した英虞湾の汚濁機構や物質循環に関する基礎研究の成果にもとづいて,環境 予測システム,浚渫ヘドロを用いた干潟造成技術,漁業者が実施可能なアマモ造成技術,浚渫ヘドロを瞬時に固化できる底泥処理技術などの実効性のある技術が生まれている.しかしながら,本プロジェクトをはじめ様々な研究事業が実施されているにも関わらず,未だ英虞湾の環境回復の兆しは見えず,地域の主力産業である真珠養殖業の低迷が続いている.研究開発を目的とした本プロジェクトから生まれた様々な研究成果は,地域の環境行政や真珠養殖業,環境教育のあり方などの個々の局面においては多大な影響を与えてきた.しかし,英虞湾再生の全体計画像や地域の主力産業である真珠養殖業の将来像を提示し,実現性のある問題解決型の事業を始動させるには,研究者,行政,地域がさらに強固に連携し,地域全体の合意形成に向けた取り組みを行う必要がある.このような観点から,英虞湾を取り巻く5町が合併して誕生した志摩市では,英虞湾の環境再生を目的とした自然再生協議会の設立準備を進めており,英虞湾再生に向けた新たな展開が進みつつある.本ジョイントシンポジウムでは,英虞湾の研究プロジェクトの成果や地域の取り組みの実態について幅広い視点から総合的に分析し,問題解決に資する研究開発事業のあり方,すなわち,研究成果をいかに実際の環境再生に結びつけるかという研究成果の展開戦略について議論し,英虞湾のみならず,今後の我が国の水域環境の再生方法を探る.
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