<質問票 6>

☆対象 堤 裕昭先生
◎個々の発表   ○変遷と現状   ○再生に向けて   ○全体
☆内容
アサリ・ハマグリなどの生産について

1968年ごろから急に生産量が上昇していますがこれは貝をとる人口が増え
のですか?

アサリを食べている生きものがふえているとかいうことはないのですか?

<回答者 菊地泰二>
1960年代までは、生きた水産物の長距離輸送手段がなく、有明海のアサリは採っても沿岸町村からせいぜい福岡市までが流通圏で、
多量に採ると値崩れするだけだった。利用も、味噌汁の身など日常の和食のおかずに限られていた。
高速道が伸び冷蔵トラックによる長距離輸送が可能になったため遠隔地の都市圏まで販途が拡がり、
また洋食の食材として季節を問わず需要ができたため、多量出荷しても値崩れしなくなったのが
多くの漁民の採貝漁業への参加をもたらしたと考えています。
全国的にアサリの市場単価は70年代以後高水準を保っています。年8万トンという最盛期の漁獲量は採りすぎとしても、
毎年の新規加入が順調に育てば2〜3万トンの漁獲量は維持できるように思うが、減少はとまらず、
貝に依存する漁民の数が激減しても資源は回復しない、最盛期20以上あった養殖業者も今は2つだけ、
中国産の輸入アサリの蓄養、出荷が主な仕事である。
ハマグリは天然物はほとんどなく区画漁業権での養殖が大部分を占めている。
 貝類捕食者は影響していないかという御質問だが、1980年代にはアサリに穿孔して捕食するタマガイ科の巻貝を調べたり、
スナモグリやアナジャコの急増が地盤をゆるめて二枚貝の生存を妨げるのではないかとその生態や密度の研究が熊本県水産センターで行われた。
局地的には関連がうかがえる場所もあったが、資源の減少はそれらの他種の存在しないところも含め広汎な地域で起こっており、
底生肉食者はあまり棲息できないのが現状である。渡り鳥ではオナガガモがアサリの中・小型貝を1羽で1日数十個食べることが、
狩猟で殺された数個体の胃内容で確認されているが量的推定は難しい。諫早湾北岸のアサリ養殖場ではアカエイの食害もあり、
熊本県でもアサリ漁場の上にロープを低く張り食害を防いでいるところがある。捕食者が近年増加した事実はありません。
アサリ漁場が少なくなったので、そこに集中しているかどうかは不明。
  

 
<質問票 9>                      

☆対象
◎個々の発表   ○変遷と現状   ○再生に向けて   ○全体
☆内容
「有明海はにごってあたりまえ、との発言がありましたが
諫早湾排水門の開放では「浮泥のまき上げ外洋への流出が漁業に悪影響を与える」という声もあります。
はたしてそれが本当か「浮泥のまき上げ」は特に悪影響がないのではないか、教えてください。

<回答者 菊池泰二>
私は有明海の干潟、極浅海域に関しては大きな潮汐流に伴う底表微細泥の再懸濁、最沈殿は常時あって当然で、
これが止まれば干潟の浄化機能の著しく低下すると考えています。
有明海奥部の平均粒子径数ミクロンの干潟をヘドロだと思う砂干潟しか見慣れていない人の意見は間違っています。
現在潮受け堤防の外側に泥が堆積しつつありますが、これも極めて正常な現象だと思います。砂底と泥底では住む生物に相違があるので、
水産資源やその餌としての価値評価は別ですが。
それと諫早湾締め切り提開放に伴う濁水の問題はまた別のことです。
現在堤防内の遊水池は水の動きのないところへ河川からかなり汚れた水が流入し、N,Pの濃度が高いだけでなく、
内部の泥には重金属やいろいろな汚染物質も溜まっているようです。
また、樋門を開けた場合、そのすぐ外側の泥底が水流の勢いで洗掘され、
濁水がまとまって流れれば北部樋門外側の小長井漁協が心配しているような漁業被害も起きる恐れはあります。
水質の差は常時開放すれば平均化すると思いますが、内部の干拓地を全部海に戻すのではない限り、
また、一度干陸化した元干潟に何年で海の生物が戻り浄化機能が回復するか、
その過程での樋門隣接域の漁民の生活への護衛は必要かも知れません、
洗掘による泥の流出(これは干潟上の再懸濁とは質が違う)は、工学的手法で防ぐ必要があるかと思います。
些細なことですが、ご質問のなかに「浮泥のまきあげの外洋への流出」とありましたが、これは諫早湾外の誤りと思います。
島原市以南の有明海は外海水の流入で透明度もよく有明海奥部の懸濁流の影響はありません。
養殖ワカメなどは泥粒子が付着すればマイナスの影響がるかもしれません。
いわゆる外洋は、有明海を出外れてその外側の千々石湾を通った外側の天草洋まででなければなりません。

 
<質問票 20>                      

☆対象 松田先生
◎個々の発表   ○変遷と現状   ○再生に向けて   ○全体
☆内容
物質循環、特に還元の問題については、生態系のはたす役割が重要だと、私も思います。
そこで質問なのですが、ppbの単位で生態系に影響を与えているいわゆる環境ホルモンについて
(その影響のメカニズム等も明らかではありませんが)先生のご専門の環境循環系制御学では、
現時点でどのように考えておられるでしょうか。
ご教授いただければ幸いです。

<回答者 菊池泰二>
平成12年8月、大牟田川中流域でのダイオキシン濃度が350pg、と環境基準の350倍あることが福岡県の検査で判明、
これはダイオキシンを含むことがわかって使用禁止になった農薬CNPを三井化学(株)が大牟田工場に保管していたものが洩れたもの。
平成11年環境庁調査でも柳川市沖合で2.4pgのダイオキシンを検出、
平成12年大牟田市は河川のダイオキシン濃度がコンクリート壁の継ぎ目補修によって1.2pgにさがったこと、
海産の魚介類では基準を下まわったことから食品としての安全宣言を出した。
九大農学部水産環境科学の本城教授の研究室では平成10年から福岡有明沖の5地点で海水、低泥、タイラギなど貝類のTBTを調査、
10年には海水1リットル当り平均38.7ng、底泥では平均39.4ng乾泥が検出されている、
大牟田沖ではインポセックスのイボニシも発見されている。
平成11年は海水で2.67ngに減少、ところがタイラギの生殖腺から1gから30.4ng、
アサリの固体から最高89ngのTBTを検出している。
TBTは全国漁業連合会が1987年に使用を禁止、環境庁は1990年TBTの1種トリブチルオキシドの製造、輸入を禁止、
ほかのTBT化合物も行政指導で製造を禁止している。
紫外線下では自然分解が進行し1,2年中に消滅しなければならないはずなので、
使用禁止後もなおどこかに温存され使用されているのか不明である。

 
<質問票 25>

☆対象
○個々の発表   ○変遷と現状   ◎再生に向けて   ○全体
☆内容
これまでの議論を通じて、有明海の干潟の減少による浄化機能は低下が今日の不作の一因という印章を受けました。
滝川先生の報告の中に各干潟の浄化能の表がありましたがこの計算に従った場合、
かつての諫早干潟の浄化能はどの程度あったと推測されますか?
よく一色干潟の例が出されますが砂干潟泥干潟の違いをどのように計算すればよいのでしょうか?
さらに諫早湾干潟の再生を目指す場合現在干陸化している西工区の復元が重要ですが、
この可能性はどの程度あるのでしょうか?
(現在西工区は干陵化し陸生の雑草がおい茂っています)
諫早だけでなく有明海全体で失われた干潟再生の可能性をお示しください。

<回答者 菊池泰二>
諫早湾の生産力や水質浄化能については、シンポジウム当日は述べる材料を持ち合わせませんでしたが、
その後佐々木克之氏が岩波書店から出ている雑誌「科学」七月号(諫早湾、長良川河口堰特集号)に、
私が以前書いた諫早湾干潟のハイガイの現存量推定を用いた二次洗浄化能を、滝川氏が当日発表された脱窒速度推定値をもちいて
二次浄化の齲を推定し、結論として、それは諫早湾への流入負荷全部処理するのに十分なのどの浄化機能があっただろうそ推定します。
一般には砂干潟のほうが浄化機能は大きいとされています。
砂干潟は粒子間隙がより大きいため干出時に地下水位が下がり、
そこまで空気か表面水が入るので好気性細菌による有機物分解に有利な為です。
泥干潟は干出しても底質粒子がこまかすぎて土中水分は毛細管現象で保持され入れ替わりが乏しいので、
酸素供給が無く嫌気性細菌による分解がおこなわれがちで、硫化水素臭のある黒色泥になりがちです。
しかし、有明海の場合、締め切り禅の諫早湾を初め各地の泥干潟は泥中の硫化物濃度は非常に低かった
(1988年諫早湾干潟の岸から1kmまでの範囲の数十地点を調査したところ、硫化物濃度は本明川口を除き0.02-0.03mg/g乾泥。)
これは、高密度にすむマクロベントス(大型底生動物)の生物撹拌作用と大きな干満が止まった1ヶ月後諫早湾の泥は黒変し、
硫化物濃度が急増しました。
この再懸濁作用を加味した浄化能の推定法は世界的にも完成していないと思います。
新聞情報では、長崎県は、今度干潟浄化機能推定に実績ある愛知水試の人(鈴木輝明氏か?)に泥干潟の浄化機能の評価を委嘱する由です。
西工区はすでに干陸化し周囲を頑丈な内部堤防で囲まれています。
地盤も地上から輸入土や遊水地底からの浚渫土で大分嵩上げされているようです。
干潟の機能を取り戻すには、内部堤防を全部壊し、現在のグラウンドレベルを以前の干潟面に戻し、
海水準の干満、潮の動きを以前のように戻すことが必要です。
有明海全体についても、すでに、二、三十年前に干拓ができてしまった場所を全部干潟にもどすことは難しくても、
現在する干潟をかつてのようにアサリを始め干潟ベントスの質量両面の回復をめざすことですが、
アサリの減少原因もまだ突き止められずにおります。

 
<質問票 31>

☆対象
◎個々の発表   ○変遷と現状   ○再生に向けて   ◎全体
☆内容 
☆@<菊地先生> 底生生物相
長崎大学の先生が発表された諫早干拓堤防閉切り後、ベントスが激減したという報告を否定されるような発言をされるような気がしますが、
意味がよくわからなかったので補足の説明をして頂きたいと思います。
 A<漁業>先日水産庁が有明海の2000年(昨年)の漁獲量統計を入手しました。
1972年から漁獲量の平均を、諫早干拓の潮受堤防工事の開始と、その閉切りに目をつけて
(1)1972年〜1989年 (2)1990年〜1996年 (3)1997年〜2000年
(工事が始まるまで) (工事が始まって閉切るまで) (閉切って後)と分けると、
その平均漁獲量は(1)>(2)>(3)となり(1)と(3)の数値には著しい差があります。
昨年の漁獲量が最盛期の16%にまで激滅していますが、潮受堤防の工事と決定的要因だと考えています。
干拓工事と漁獲量の激滅についてどうお考えかコメントを頂ければ有難いです。

<回答者  菊地泰二>
長崎大の東教授らの研究は、諫早湾口から有明海の中部、奥部にかけて数十地点で定量調査を経年変化を追って行った貴重なもので
私も高く評価しております。
ただ、1999年11月の資料が、その前後の6月調査時の生物個体数に比べ二〇分の一以下であるということについて、
通常の季節変化ではこんなには減らない、夏の酸欠の影響ではないかと推察するという点について疑義を申したのです。
内湾の泥底や砂泥底に棲む小型二枚貝やヨコエビ類のような小型短命な動物では、正常な環境でも年間の最高と最低の密度の変動は、
4〜6月が最高、11月〜1月が最低となり、最小値は最大値の数十分の一になることも珍しくないからです。
赤潮の有無に関わらず、流れの変化、低層水酸欠の度合いとその期間のデータを把握する必要があるでしょう。
あのシンポジウムののち、雑誌「科学」の有明海、長良川河口堰特集号に東氏らの調査結果の詳細が公表されたのを拝見し
私の発言は撤回してもよいと思っています。
今年8月の調査でも有明海内の3箇所を中心にかなり溶存酸素の低い水域が確認されたようです。
近日中に環境庁と農水省ほか4省庁の委員会で結果報告を聞く予定です。
 漁業との関連は私は当然関連あるものと考えています。
少なくとも諫早湾口周辺のタイラギの不漁、養殖アサリを死滅させた2000年及び2001年夏の有毒鞭毛藻の赤潮は
扉門からの放流水と関連あるものと思います。
熊本県側の干潟アサリ資源長期低落はまったく別の原因でしょうし、
同じタイラギの死滅にしても福岡有明の筑後川河口沖の分については人為的影響ではあっても
諫早湾締め切りと関連があるかどうかわかりません。
低層貧酸欠化の原因は諫早湾だけでなく、大牟田川の排水や炭鉱陥没による底質の有機泥堆積などの可能性もあります。