総合討論
今後の環境修復に関する総合討論(座長:産業技術総合研究所・石川公敏)

   登壇者
    高安克己 (島根大学汽水域研究センター)
    船橋昇治 (国土交通省出雲工事事務所)
    奥田節夫 (京都大学名誉教授)
    中尾 繁 (北海道大学)
    中村幹雄 (島根県内水面水産試験場)
    田口浩一 ((株)シーティーアイ)
    中村義治 (水産工学研究所)
    高橋正治 (宍道湖漁協参事)
    川上誠一 (環境イニシアチヴ)

(1)メンバー紹介および総括
  メンバーの紹介の後,座長より環境修復の目標設定の共通認識について総括があった.
 生態系の利用と環境修復技術について,数値シミュレーションとモニタリングの両面から
 戦略的にアセスすることが必要であることが強調された.

(2)ミニトーク
  初めて登壇する3名の方々から簡単なコメントがあった.

(中尾)
  数値モデルを用いて本当に将来が予測できるかどうかを詰めていってほしい.
 これまで提案されてきた種々の対策を含めて検討し,
 宍道湖・中海の将来像が描ける形で提案してほしい.

(高橋)
 ここ40年,干拓・淡水化事業と深く関わってきた.
 宍道湖は貴重な汽水域として発展してきたが,近年の水質悪化は
 シジミやコノシロの斃死を招いている.
 境水道・中海・宍道湖の汽水域を守るためには,
 海水による潮通しが必要と思っている.
 干拓堤防の掘削による水質の将来予測では,水質は変化しないとされているが,
 これは平均値で議論され,かつ生態系への配慮がなされていない.

(川上)
 環境を中心としてまちづくりを勉強する市民グループの代表である.
 今年は中海の水質の数値シミュレーションもやった.
 干拓事業中止決定後,市民活動のエネルギーがが低下したが,
 本当はこれからが大事であると思っている.
 国土交通省と環境省に訪問して会談した結果以下のような印象を持った.
 まず1つは,干拓事業に伴って窪地が多くでき,これによって環境が悪化しているが,
 これについては,淡水化事業の方向性が決まっていない現時点では修復が難しい.
 もう1つは,国土交通省は環境改善に対して前向きな姿勢であるのに対して,
 環境省からはやる気が感じられなかった.

(3)フロアーからの意見と質疑応答

<修復目標の設定について>

(フロアー)
 昔の状態に戻せないかというのが皆の認識か?
 それより人間の叡智を用いて自然界にある現象よりもすばらしい環境を作り出せないか?
 現存する環境問題を認めたうえで新しい目標設定が可能では?

(フロアー)
 人間が新しい環境を創造することは難しいのではないか?
 霞ヶ浦では30年前の環境を目標に環境の復元を目指しているが,
 宍道湖・中海における環境修復目標は何か?目標設定が重要では.

(奥田)
 時代背景がかなり異なっている.いつの時代の環境を目標にといわれても,
 ロマンや限度があるので,難しい.
 地元の方が地元の文化を考慮した上で目標を決めるのがよい.

(フロアー)
 パネルディスカッションには社会科学的観点からの人選もお願いしたい

<治水対策・環境修復事業について>

(船橋) 
 どういうことをやるべきかというコンセンサスが得られているものと
 そうでないものによって公共事業の選別がなされて行くであろう.

(船橋) 
 流域負荷について:
  水質保全は流域からの負荷を抑えることと溶出してくるものを抑えることの両面がある.
 前者については県や市町村,後者については国土交通省が担当するが,
 共通の目標を設定して水質保全計画を立てることが必要.


 大橋川改修について:
  47年の出水,それに対する対策として浮上した.
 大橋川拡幅は早く水が引くという意味では一番効果があるが,
 中海側(米子)では反対意見が強い.
 最近測量のみ許可された.これについては状況が変化しているが,
 54年当時と同じものではなく,臨機応変に対応したい.

 中海の窪地について:
  宍道湖内の3つの窪地は3年以内に埋める予定.
 中海にはかなり大きな窪地があるが,単純に埋めるということにはならない.
 とりあえず,覆砂によって溶出を押さえる試みを行う.
 効果を判断しながら次の策を企てたい.

(高安)
  窪地をヘドロのトラップ装置として利用できないか?
 年間どのくらいたまるのかを調べるプロジェクトも考えられる.
 また,ヘドロを食すバクテリアに関する現地実験池としても利用できるかもしれない.
 うまくいけば窪地の環境改善につながる.
 肥料や燃料などへのヘドロの利用法についても考えている.

(中村幹)
  長期的には窪地はない方がよい.
 漁業の立場からは,窪地の埋め立てよりも浅場造成の方が好ましく,
 限られた砂はそちらにつかいたい.

(奥田)
  琵琶湖の湖底埋め立ての経験からであるが,
 窪地内の貧酸素水塊は動かなければ問題はない.
 窪地内の貧酸素水塊が動くのは,洪水の場合と風が吹く場合である.
 洪水の場合は希釈されるので大きな問題ではない.
 強風が吹く場合には深刻な問題となる場合があるが,
 個人的には,窪地の周辺には顕著な悪影響がでないのではないか?
 被害の出現度に応じて,即座に埋めるか,
 しばらく様子を見て次善策を考えるかを決めた方がよい.

(フロアー)
  大橋川の拡幅について,計画当時,
 ダムを造る,斐伊川を日本海へ,大橋川の拡幅,3案を提示された.
 まさか,3つともやるとは思わなかったが,3つともやると聞いた.
 喜んだのは土木業者だけ.

(フロアー,県側)
  昭和50年に島根県が発表したもの.
 セットではじめて生きるものである.
 島根県の活性化のために干拓をやると言うことであった.
 斐伊川流域の問題については特別に取り扱った.島根県総合振興計画.

(フロアー)
 拡幅の必要はないのではないか?塩害が起こる.

(船橋)
 54年の段階で,3点セットを最終的に提示した.
 大橋川拡幅の意味は,大橋川周辺は堤防がないので無防備であり,
 断面を大きくするというものである.ただしまだ何も決めていない.

(フロアー)
  宍道湖・中海の浄化・再生・将来の展望に役立つかどうかはわからないが,
 長野県の飯山市の例(農業集落排水の複合発酵方式)が一助となるのではないか?

<生態系モデルについて>

(船橋)
  生態系モデルによる数値シミュレーションは,
 現象をマクロに見るには非常によいツールと感じている.有用性に期待している.
 ただし,計算メッシュのサイズなど,現象をどの程度再現できているかについては
 検討の余地があるのではないか?
 たとえば,窪地の影響などを再現できているかなど.
 シミュレーションは現象を必ずしも厳密に再現できているわけではない.
 ある程度の平均値を示しているにすぎない.
 その意味でもモニタリングの重要性は認識している.

(中尾)
  水産の立場から考えると,生態系モデルがシジミの管理漁業に利用できると非常に面白い.
 そのためには,生活史がわからなければならないが,
 現在の知見ではまだ不十分であろう.
 これらが組み込めれば,生態系モデルはきわめて有用なツールであると認識している.

(中村義)
  シジミの代謝モデルはかなり確立しているので,
 シジミの成長過程や浄化過程などを考慮して,
 それなりのモデルを構築することはできる.
 CO2の固定などの環境問題にも利用できる.
 精度,完成度を高めるためには生物モデルの確立が必要である.

(フロアー)
  モデルを動かせばすべてがわかるわけではない.
 今わかっている現象しかモデルには組み込めない.
 モデルを構築するのと同時に,モニタリングも同時にやるべき.
 観測の重要性を認識されたい.モデルに組み込むべきパラメタを精査されたい.

(フロアー)
  ジョイントシンポジウムでは,モデルを使って大上段に物を言ってはどうか?
 たとえ間違っても貴重な経験則になるのではないか?

(田口)
  モデルですべてがわかるなどとは思っていない.
 少し話ができるくらいのレベルである.
 問題点・改良点も認識しており,これらを整理しながらモデルを発展させている.
 生物モデルだけではなく,底質からの溶出についても課題である.

(フロアー)
  シジミの鳥(カモ)による捕食などを含めたモデルを考慮しなければ
 真の生態系モデルとは言えないのではないか?

(田口)
  認識している.系からの取り除きは重要な要素である.

<データ管理について>

(高橋)
  数年前からシジミの操業日誌をつけている.
 継続的に繁殖・再生産できる環境を望んでいる.
 漁場管理の必要性を認識しており,正確な資源量を把握・漁獲量の把握に努めている.