========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.53/ 2 0 0 9.8 .31 (MON) 発行

 =================================

 ▽近代化遺産とまちおこし

  7月18日、はたや記念館「ゆめおーれ勝山」がオープンした。勝山の中
堅機業場であった木下機業場は、明治37年(1904)の創業で平成10年(19
98)に操業を停止、その建物を勝山市で保存・活用して開館したものであ
る。旧木下機業場は本県の代表的な近代化遺産の一つであった。
 近代化遺産とは、織物工場や製糸場、製鉄所などの工場やそこで稼働し
ていた設備や機械、さらに隧道、発電所、鉄道橋、ダムなどの建造物や港
湾施設など幕末・明治維新以降の日本の近代化を支えた諸資産をさしてい
る。
 旧来の「文化財」の範疇とはやや異なるが、文化遺産として捉え再評価
する機運が近年高まり、「近代化遺産」として一定の市民権を獲得するに
至っている。文化庁では平成 8年(1996年)に文化財保護法を改正し、登
録文化財制度を導入し、その保護が本格化した。

 類似の取り組みとして経済産業省では、「近代化産業遺産」制度を制定
している。
 幕末から昭和初期にかけての産業近代化の過程は、今日の「モノづくり
大国・日本」の原点であると同時に、各地域における今日の基幹産業のル
ーツとして大きな意義を有している。
 経済産業省では、「近代化産業遺産」は文化財的な価値を持つことに加
えて、国や地域の発展においてこれらの遺産が果たしてきた役割、産業近
代化に関わった先人たちの努力の過程は、豊かな無形の価値を物語るもの
であり、地域活性化の有益な「種」となり得るものでとし、将来に向かっ
て地域の活性化を進めるうえで、重要な意義があると結論づけているわけ
である。その特徴は、遺産の保護、保存に加えて、それを活用する視点が
盛り込まれている点に見出すことができる。
 これらを踏まえ、地域活性化に役立てることを目的として、産業史や地
域史のストーリー性を持たせ、相互に関連する複数の遺産により構成され
る「近代化産業遺産群」を認定している。個別の遺産ではなく、遺産群と
してとりまとめている理由は、個々の遺産だけではその意義が十分に伝わ
らず、それを可能にした人材・技術・物資等の交流にも着目し、「群」と
して関連づけることにより、遺産が果たした役割をより明確化でき、その
価値の普及が効果的になされると考えているからである。
 その結果、平成19年に33の地域が産業近代化の過程を物語る存在として
選定された。

 本県の繊維関連遺産も、「『羽二重から人絹へ』新たなニーズに挑み続
けた福井県などの織物工業の歩みを物語る近代化産業遺産群」として、産
業の近代化の過程を物語る意義のある資産として認定されている。
 本県における繊維近代化産業遺産群は、国内外から時々の先進技術を積
極的に導入し、時代の変化に柔軟に対応してきた先人達の歴史を追体験で
き、次代を担う人材の養成にも大いに貢献することが出来る点で、福井県
人ももっと評価してしかるべきであろう。 
 明治以来福井は「モノづくり」で生きてきたが、その原点ともいうべき
ものこの織物工業である。明治20年に羽二重織技術を外部(桐生)から導
入し、その後は桐生を凌ぎ、福井県絹織物の生産額は全国第 1位となり、
羽二重王国→人絹王国→合繊王国として1980年代まで 100年間世界市場に
名を馳せた。その歴史から学ぶべき点は多い。
 「ゆめおーれ勝山」では1階で実際に使用されていた織機の展示実演し、
 2階では「繊維のまち勝山」を紹介するほか機業の歴史や工程の一部を糸
繰機や整経機を動態展示しており、その意図も評価できる。
 経済産業省では、勝山市内の松文産業株式会社旧女子寮、ケイテー資料
館の建物と所蔵物、現在も羽二重織を継続している東野東吉織物工場、そ
れに加え福井市の旧福井精練加工株式会社社屋(現セーレン本館)や鯖江
市の旧鯖江地方織物検査所もリストに掲示している。
 勝山市では、「ゆめおーれ勝山」を今後の地域活性化の起爆材の一つと
考えているが、県内の諸資産とどのように連携してその効果をあげるかが
次の課題であろう。

                   (地域経済研究所 奥山秀範)



         このウィンドウを閉じる