========地域経済研究所 eメールマガジン========= VOL.55/ 2 0 0 9.10 .30 (FRI) 発行 ================================= ▽景気対策と自治体財政 近年まれに見る世界的規模の経済危機の影響は、日本各地の自治体財政 にも及んでいる。統計ですべて明らかになっているわけではないが、法人 からの税収が激減しているのである。例えば豊田市ではトヨタ自動車や関 連企業の集積で財政状況は毎年トップクラスの健全性を維持してきたが、 2009年度には法人市民税が9割減少すると見込まれている。「3割自治」と 言われるように地方歳入に占める地方税の割合は半分にも達していないが、 これほどの減少は地方財政にとって大きな打撃である。 地方財政とりわけ税収は、税源の偏在性が少なく安定的なものが望まし いといわれてきた。地方財政は地域に身近な行政サービスを提供すること が主な機能であり、そのためにはどの自治体でも安定した財政基盤が必要 だからである。そして景気対策は地方財政本来の機能ではない。マクロの 経済対策は国レベルの役割で、地域ごとに対策がバラバラでは効果が望め ないからである。 しかし、こうした「そもそも論」は地方財政の現実からとうに乖離して いる。法人税収は安定性を欠き大都市に偏在する税源だが、豊田市のよう に地方の歳入に大きな影響を与えてきた。景気対策もまた、地方にも起債 (借金)が増発できるよう、地方交付税での元利償還措置などの制度によ って、地方財政に組み込まれているのである。 こうした現実には、主に2つの止むを得ない要因がある。第1に、国の財 政が厳しいことである。国債の残高は1000兆円に達し、国民 1人当たりに 換算すると1000万円近くにもなる。もちろん世界最悪の水準である。今後 残高が増え、さらに人口減少が進めばさらに悪化するであろう。景気対策 のためには国債だけで賄うのは限界であり、地方が分担するのは避けられ まい。 第 2に、地方自治体の役割拡大に伴う税体系の変化である。戦後におけ る福祉国家の進展や生活水準の向上は、地方自治体を対人サービスの担い 手として、さらには地域に密着した行政主体としての期待が高まった。サ ービスを向上させるには税収が必要だが、それまでの固定資産税を中心と した税体系では限界がある。そこで、従来は国に帰属すると考えられてき た所得課税が住民税として拡充されるとともに、消費税も地方消費税とし て導入されるようになったのである。今後、消費税増税の議論がなされる であろうが、地方への配分を巡る攻防も同時進行するであろう。このよう に国と地方で、それぞれの役割に応じた税の区分は薄らいできている。 こうした状況で、地方自治体は国と歩調を合わせて景気対策をすべきで あろうか。確かに地域の雇用が失われ、企業が倒産する現実を目の当たり にするとき、地方自治体としてこれに対応しないのは、無責任であろう。 しかし忘れてはならないのは、景気対策が国の役割となる背景にあるのは、 国が法律による課税権を把握していることである。景気対策として国債を 発行するとき、同時に税収をコントロールできるから償還財源も確保しう るのである。地方自治体にはこれがない。全国の地方自治体は地方税法に よって税体系が制約され、国税のように税収を自ら確保する道が閉ざされ ている。地方に借金だけ負わせて収入の確保を認めない財政構造は、確実 に破綻へと導かれるであろう。 地方分権は世界的な潮流として、また地方自治体からの要請で少しずつ 進んでいる。それは今回の不況を機に、国家財政の視点からも待ったなし の改革になったと言える。 (地域経済研究所講師 井上 武史) このウィンドウを閉じる