岡敏弘
飲食物の放射性ヨウ素の暫定基準値の決まり方についての解説を産総研の岸本充生さんが書いている(こちら)。しかし、 team nakagawaなどの情報をもとに岸本さんが計算した、1年でちょうど11.1mSvを甲状腺が被曝する飲食物中の濃度が、team nakagawa が出している数値と合っていない(岸本の表2 計算結果の「team nakagawa」と「独自計算」)。
その理由は、岸本さんが、ヨウ素131だけを取り込むと仮定していることにある。
「飲食物摂取制限に関する指標について」(平成10年3月6日 原子力安全委員会原子力発電所周辺防災対策専門部会環境ワーキンググループ)に従って、飲食物中にI-131が1 Bq存在したとき、初期には、Te-132, I-132, I-133, I-134, I-135がそれぞれ1.3191 Bq, 1.3617 Bq, 1.4255 Bq, 0.0006 Bq, 0.5532 Bq 存在すると仮定し(つまり全体では5.6601 Bq存在すると仮定し)、それらがI-131と同様にそれぞれの物理的半減期 78.2時間、2.3時間、20.8時間、52.6分、6.61時間に従って減衰していくと仮定し、さらにそれらの核種の単位経口摂取量あたり甲状腺等価線量(mSv/Bq)をこの表
核種
| 成人
| 幼児(5歳)
| 乳児
|
Te-132
| 2.9E-05
| 1.6E-04
| 6.2E-04
|
I-131
| 4.3E-04
| 2.1E-03
| 3.7E-03
|
I-132
| 3.4E-06
| 1.9E-05
| 4.0E-05
|
I-133
| 8.3E-05
| 4.6E-04
| 9.8E-04
|
I-134
| 5.5E-07
| 3.1E-06
| 6.5E-06
|
I-135
| 1.6E-05
| 8.9E-05
| 1.0E-04
|
の通りと仮定して、1年摂取でのこれらヨウ素群からの被曝量の総計が11.1mSvになるときの、3つの飲食物カテゴリー中の、代表核種I-131の濃度(Bq/kg)を求めると、「飲食物摂取制限に関する指標について」の表6と同じく
飲食物
| 成人
| 幼児
| 乳児
|
飲料水
| 1270
| 424
| 322
|
牛乳、乳製品
| 10500
| 849
| 382
|
野菜(根菜芋類を除く)
| 5220
| 2500
| 3280
|
となる。暫定基準値は、これらの中で最も小さい値を超えないように、水と牛乳で300 Bq/kg、野菜で2000 Bq/kgと決められた。水と牛乳の基準は乳児の被曝をもとに、野菜の基準は幼児の被曝をもとに決まったというわけである。
I-131以外の核種は初期存在量は多いが、半減期が短いので、それらの預託線量への寄与は1割程度である。
放射性セシウムと放射性ストロンチウムの基準値も同じ考え方で決まっている。すなわち、Cs-134とCs-137の合計が1Bqあったとき、Sr-89が0.28732 Bq、Sr-90が0.04555ベクレルあると仮定して、それらの濃度が物理的半減期に従って減っていく水や食品を1年間摂ったときの預託線量が1mSvになるような、初期の代表核種Cs-134、Cs-137の飲食物中濃度を求め、飲食物カテゴリーごとに、最小値を与えた年齢の値をもって、全年齢の基準値としたのである。
摂取する飲食物中の放射性ヨウ素の濃度が物理的半減期に従って減っていくという仮定が置かれていることは、食品安全委員会が出している解説文「東北地方太平洋沖地震の原子力発電所への影響と食品の安全性について」の第16報(3月30日)までは示されていなかったが、第18報(4月3日)では、Q&Aの問2への答えとして明記された。第22報では問3への答えの中に記されている。報道では朝日新聞が4月5日に報じた。
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