オーストラリアの高齢者医療について

Central Sydney Area Health ServiceのClinical Director Peter Kennedy博士さんに聞きました。

日本の医療現場も何度か視察したことのあるKennedy博士からまず第一声が、「日本の高齢者医療・福祉はたくさん問題をかかえてますね」。特に2つのことを強調されました。一つは、高齢者の病院への入院日数の長さでした。日本では患者の平均入院日数は約34日間と他の先進諸国と比べても相当長く、オーストラリアではその約5分の1の6日間。その長さの原因は、会計システムの違いだと博士はおっしゃられました。日本では入院すればするほど、薬を使えば使うほど病院の収入が増えるしくみになっている一方、オーストラリアでは"Case Mix Funding"制度を施行しており、一病状ごとの入院日数、政府からの補助金の額が決まっているので、病院や医者はなるべく早く高齢者患者を退院させるようになります。ただし、高齢者の場合、病気が複雑化し、一般的設定にあてはまらない場合もでてくるそうです。もう一つの長さの原因として、日本の家族が高齢者を病院に長く滞在させることに違和感をもたないことをあげられた。これは歴史的に日本人が医者や病院と対等の関係でなく、病院側からのケアを一方的に受け入れる習慣からきていると思われます。

しかし、Case Mix Fundingをもし日本で導入すると、病院が収入を増やすためにひたすら早く退院させることに集中し、質が低下するのではないかという疑問が生まれます。そのことについてKenndy博士は、「もちろんオーストラリアにも営利目的に走る医者がいるのも事実ですが、大部分の医者たち自身が声をあげて医療費を減らす努力をしているのも事実です。また、日本のように医者個人が病院を経営するということはほどんどありません。公営または非営利団体経営の病院に雇われています。

もう一つの問題としてKennedy博士は、日本の医療セクターと福祉セクターの関係の弱さをあげられました。いくら個々のプログラムが医療と福祉の分野で別々に行われたとしてもそのセクター同士が強いネットワークをつくり、協調しなかったらプログラムの実施段階で大きな支障をきたす可能性が高くなります。オーストラリアでは日頃から両セクターのネットワークをつくり、さらにお互いのセクターを信頼、尊敬し合うことによって各プログラムの効果を上げる努力をしています。このネットワーク作りは政府の政策によって目的化され、大きな医療セクターへの圧力もかけられています。

最後に博士は「高齢者に対するケースマネージメントでもっとも大切なことは高齢者をサービスに合わせるのではなく、サービスを高齢者のためにつくり、合わせていくことです」と強調された。

                   

sfunaki@fpu.ac.jp