オーストラリアの高齢者コミュニティケアにおける地方自治体(市行政区)の役割
歴史的背景 1800〜1980
オーストラリアの地方自治体(市行政区)の歴史は先進連邦国の中でもユニークな特徴を持っている。また、オーストラリア国内においても各州によって地方自治体は異なった高齢者コミュニティケア政策の役割を持っている。1840年代に初めてオーストラリアにおいて地方自治体が誕生し、1842年にNSW州法が条例や規則制定、道路整備、公共施設管理、学校建設等を行う限定責任政府として地方自治体を認めた。しかし、シドニー市などの地方自治体は、広大な行政区域、少ない人口、議員の経験不足、目的の欠如等の理由から短命に終わり、存続し続けたのはビクトリア州の地方自治体だけだった。一方で、道路建設共同組合、委員会の数は19世紀を通して増加していった (Power:8).。
ビクトリア州では1854年に、9平方マイル以内に300人の人口がいた場合に地方自治体を設立するという150軒におよぶ嘆願書によって市行政法が成立した(Power:11)。NSW州でも1858年に責任政府が誕生したが、1906年まで州の1%のみが市行政区でカバーされた。なぜならNSW州民が他の植民地よりも地方民主主義にたいして消極的だったからである。1900年には6州内4州で強制的な地方自治体システムをつくり、NSW州でも州の8分の7が市行政区域でカバーされた(Power:14)。ほとんどの大都市で都市統合の動きがおこり、シドニーやメルボルンでは実現しなかったが、1937年にニューキャッスルで成功した。その代わり、多くのその場限りの団体が特別なサービスを運営するために州法で設立された。しかし、1924年にクイーンズランドにおいて50のカウンシルとその他団体がオーストラリア最大の市行政府ブリスベンとして統合した(Power:16)。
オーストラリアの高齢者コミュニティサービスにおいて、地方自治体は1920年まで連邦/州政府の決定による単発の事業だけを展開していた。ビクトリア州では州政府により地方自治体の福祉サービスに対する責任がNSW州よりもかなり早く認められる一方、NSW州シドニーでは第2次大戦後になって障害者を持つ人の増加に伴い、地方自治体の役割が広がった。1969年には地方自治体はthe State Grants (Home Care )Actによってシニアシチズンセンター建設や福祉専門職員採用のための補助金を受けることができるようになった。また、1972年にはWhitlam労働党連邦政府が、道路建設維持のための220万ドルの特別補助金を地方自治体に支給し、1975年には1億900万ドルに達した。さらにオーストラリアアシスタント計画は1977年まで継続し、地方自治体の地域でのコミュニティサービス計画、コーディネーション、供給における役割を高め、1986年には、5億8600万ドルに達し、地方自治体予算の約10%を超えた。(Office of Local Government:23-61).
高齢者コミュニティケアにおける課題
法的能力
オーストラリアの地方自治体は独立自治権を持たない州法により成立するシステムになっている。そのため、法律上は州法で特別に決められた機能しか実行することはできない。つまり、地方自治体は州政府に機能能力の変更を求めることしかできないのである。ドイツでは、地方自治体は権力は政府下にあるが、一般的な法律を制定する能力は保証されている。アメリカやカナダでは地方自治体はさらに強い自治権を持ち、州政府と争うことさえある。オーストラリア連邦政府は連邦プログラムの発展と実施のための効果的行政能力を備えた安定した地方自治体の価値を認めはじめているがパートナーシップを発展されるには至っていない(Bowman and Halligan:115)。一方、州はその場限りの団体に特別なサービスをさせる州法によって都市政府において権力の分断化を図ろうとしている。しかし、ほとんどの州で地方自治体は州法をうまく広く解釈することで様々な種類のコミュニティサービスを発展させてきた (Office of Local Government:11~19)。
地方自治体は選挙によってコミュニティからの代表が選ばれるシステムをとっているので、コミュニティ活動や決定においてコミュニティメンバーの積極的な参加を可能にしている (Office of Local Government:11~19)。また、少なくとも連邦政府や州政府よりもその地域のニーズや状態を把握し、その特徴を理解する力は持っており、さらに公開ミーティング、住民投票、地域参加システムなどの直接民主主義を通してコミュニティケアに影響を与えることができる(Jones: 40)。ビクトリア州ではすでに地方自治体が高齢者社会サービスの主要な供給団体となっているがこの傾向は他の州でも増加している (Bowman and Halligan: 115)。
財政的能力
財政的能力に関してはオーストラリアの地方自治体は主要先進連邦国家(オーストラリア、オーストリア、カナダ、ドイツ、スイス、アメリカ)の中でもっとも弱い。
表1はオーストラリアの中央集権度の高さをはっきり表わしている。イタリアとオランダの地方自治体の税金能力の割合は低いけれども、中央政府より一般補助金を得ることでオーストラリアよりもより強い力を持っている (Jones: 9)。
表1: 各国の地方自治体の税収 1988.
地方自治体の役割は州ごとによっても異なるが、オーストラリアの地方自治体は概してその地域の基本的インフラ整備(道路、ごみ、水道、図書館事業など)に携わることが多い。ただし、福祉サービスにおける役割は増加している。
表2: NSW州における主要地方自治体の目的別支出額 1992 ($000)
Source: ABS local government finance data
地方自治体の補助金の種類を見ると、連邦政府は一般補助金より特別目的補助金を利用する傾向にあり、例えばシドニーメトロポリタン地域では55%の補助金が特別目的補助金になっている。(政府補助金は地方自治体予算の12、8%を占める)
地方自治体事務所のあるレポートによれば、特別目的補助金は地方自治体にとって様々な統合したコミュニティサービスを計画、供給するのに適せず、一般補助金がより有効であると報告している。加えて、複数の補助方法は手続きのオーバーラップや不必要な複雑さをもたらす可能性がある (office of local government: 76,77)。
政策とマネージメント
地方自治体は伝統的にその地域の住民やボランティア団体等と深い関係を築いてきており、また高齢者コミュニティケアのような個人サービスニーズに応えることに適している。その他、地理的位置、行政能力、存在地位、サービス資源等の地方自治体がもつ特性も重要であろう。
一方、地方自治体は非営利団体とは違い、広い責任性と信頼性を持ち、その地域の利益をうまく作り出す能力を備えている。それゆえ、地方自治体はコミュニティケア政策においてより包括的なプランニングやコーディネーションの責任を持つべきであろう。また、サービス供給の分野においては地方自治体とボランティアセクターのどちらかが実施すべきである(Office of Local Government:86)。オーストラリアの連邦政府が地方自治体をあまり利用しない理由はNGOへの理論的哲学的信頼ではなく、サービス基準や計画を中央でコントロールし続けたいという欲求であろう(Office of Local Government:11~19)。
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