オーストラリア便り

      (すてきな高齢社会をつくる会会報 NO.10)

   

1か月ぶりにシドニーに戻り、最初のノースシドニーコミュニティセンターでのボランティアの仕事はショッピングサービスでした。今日はバス1台(ボランティア3人職員2人)で11人の家に迎えに行って大きなスーパーへ買い物。僕は今日サービス利用が初めてのベティさんの買い物を補助することになりました。一人暮しをしているとっても元気なおばあさんで、料理も自分でするとはりきって買い物をした後、バスへの集合時間までベティさんお気に入りの喫茶店でおしゃべりすることに。話を聞いてみると、この2か月1人で外出したことがなかったらしいのです。7月初めに脳卒中で倒れ入院。4日間で退院し、2か月間送迎付週2回の病院でのリハビリを続けた。在宅療養期間は、ホームヘルプを週1回、配食サービスも週5日受けていて最近うまく歩けるようになったので、今回センターのコミュニティワーカーの助言でショッピングサービスを利用したそうです。この話を聞いているときに日本なら1か月は入院して、そのまま寝たきりになる場合も多いだろうなと想像してしまいました。

 

以前、日本の医療現場も何度か視察したことのある老年医学専門のピーターケネディ博士が言っていました。「日本の高齢者の病院への入院日数は長すぎる」日本では患者の平均入院日数は約34日間、オーストラリアではその約5分の1の6日間。日本では入院すればするほど、薬を使えば使うほど病院の収入が増えるしくみになっている一方、オーストラリアでは"Case Mix Funding"制度を施行しており、1病状ごとの入院日数、政府からの補助金の額が決まっているので、病院や医者はなるべく早く高齢者患者を退院させるようになります。博士はもう1つの入院の長さの原因として、日本の家族が高齢者を病院に長く滞在させることに違和感をもたないことをあげられた。これは歴史的に日本人が医者や病院と対等の関係でなく、病院側からのケアを一方的に受け入れる習慣からきていると思われます。博士は最後に日本の医療セクターと福祉セクターの関係の弱さについて述べられました「いくら個々のプログラムが医療と福祉の分野で別々に行われたとしてもそのセクター同士が強いネットワークをつくり、協調しなかったらプログラムの実施段階で大きな支障をきたす可能性が高くなります。オーストラリアでは日頃から両セクターのネットワークをつくり、さらにお互いのセクターを信頼、尊敬し合うことによって各プログラムの効果を上げる努力をしています。このネットワーク作りは政府の政策によって目的化され、大きな医療セクターへの圧力もかけられています」

 

喫茶店でのおしゃべりの最後でベティさんがおっしゃいました。「私、来週はあなたといっしょでなくても買い物できるよね?だって他の高齢者で買い物補助が必要な人はもっといるみたいだし。でも、あなたの手は杖よりずっと安心できるよ。ありがとう。」来週ベティさんといっしょに買い物できないのはさみしいのですが、その笑顔でなんとなく暖かい気持ちになりました。

 

 

                    

sfunaki@fpu.ac.jp