(すてきな高齢社会をつくる会会報 NO.8 掲載予定)
真夏のオーストラリアのシドニーに戻り、3週間が過ぎようとしています。今回は僕のオーストラリアでのボランティア活動初日についてご報告します。
初日の仕事はノースシドニー地域の10軒の高齢者のお宅へリネンサービス(ベットシーツ代え)。ノースシドニーコミュニティセンター(第3セクター方式で設立された非営利団体)のコミュニティワーカーのスーザンさんといっしょにボランティアヘルパーとして参加しました。
スーザンさんはこのサービスを担当し、4年目。毎週地域の高齢者を訪ねているがどの高齢者の方々もまるで友人が訪れたように迎えてくれる。スーザンさんいわく、「初めのころはこんなに暖かく迎えてくれなかったよ。」サービスを受ける高齢者は一人暮しで、最初は知らない人が家に来るのをとても怖がり、家に入れることも慣れていない。しかし、同じ人が2回、3回と訪れ、少しずつ時間をかけて、共通の話題などを見つけながら信頼関係を作っていくそうです。
今日訪れた高齢者のほとんどが80才以上だが、自立度の高さに驚きました。中でもマッキントッシュさんは奥さん、娘さんを亡くされているにもかかわらず、92才で今でも自分で歩いて買い物にいくほど。10人とも年金生活者でそれほど裕福ではないが、自分の時間をきちんと管理することもでき、できることはなるべく自分でやろうとしている。スーザンさんは、「私たちがなんでもアレンジしてあげればすぐ済むことも、その人ができることならできるだけさせてあげるし、本人がそれを望んでいる。また彼等は自分の人生の哲学をしっかりもっています。」と一言。
世間話が一通り終わり、各家から帰るとき、高齢者の方はお菓子をよくくれます。デイケアに行っていて、家にいなかった男性のおじいさんは鍵をちゃんといつもの場所に置き、机の上には4ドルの実費とメッセージとチョコレートが置いてあった。スーザンさんはみんながくれるので帰るときにはお菓子でいっぱいになるけど、くれたものは食べなくてもぜんぶ持って帰り、コミュニティセンターの高齢者の方々にあげるそうです。最後に訪れたのは85才のおばあちゃん。昔大学で勉強したほどのインテリで孫のドイツ留学の話やイラクへの経済制裁の話まで話は広がった。スーザンさんは、「このおばあちゃんはかならずお茶と食べ物をだすから、少し食べてあげてね。」すると大きなケーキとサンドイッチが台所に。今日はねこのジェイジェイの誕生日だそうだ。これにはスーザンさんもびっくり。結局僕もいっしょにおばあちゃんのいれてくれた紅茶とケーキをいただき、30分ほどお話した。帰りの車の中でスーザンさんは「一人暮しの高齢者の人達の一番の障害は、地域からの孤立です。このリネンサービスもシーツを代えることが本当の目的ではなく、ほとんど自宅で人と話す機会のない老人と社会をつなげる大きな目的があるのです。」と付け加えた。にこにこ笑って老人たちと話をしているの瞳の奥にはプロフェッショナルとしての目があり、高齢者一人一人の変化をきっちり見ていた。地域の一人が地域の人を訪ねること、この5分の会話が人間一人の孤独感を解消し、生きる意味をあたえることを痛感した一日でした。