コケ植物ゼニゴケを用いたペプチドホルモンの研究
皆さんはゼニゴケを知っていますか?
Googleで「ゼニゴケ」と打ち込んで現れるサジェストワードをみると…あまり好かれている植物ではないようです。しかしゼニゴケは、私たち植物の研究者には大変魅力的な植物なのです。
コケ植物である苔類ゼニゴケは、植物が進化の過程で陸上化してから、維管束植物と独立に分岐して誕生した植物です。
ゼニゴケは、半数体が優勢の生活環を営むこと、雌雄異株であること、無性生殖と有性生殖とを併用して生育することなど、維管束植物にはみられない特徴をもちます。
2017年にゼニゴケゲノムが解読されました([link])。モデル植物であるシロイヌナズナと比べて、基本的な遺伝子は保存されつつも遺伝子冗長性が少ないこと、分子遺伝学的ツールが容易に適用できることなどから、新しいモデル植物として注目が集まっており、世界中で盛んに研究が行われています。
ペプチドホルモンとその受容体を介した細胞間コミュニケーションは、ゼニゴケでも機能しています。最近、シロイヌナズナの茎頂メリステムの活性を制御するCLV3/CLEペプチドとその受容体CLV1のペアがゼニゴケでも保存され、細胞分裂の場である頂端部で発現していること、またシロイヌナズナでは茎頂メリステムの細胞分裂抑制にはたらくのに対し、ゼニゴケでは頂端部の細胞分裂を促進するという、真逆の機能を有していることが報告されました([link])。このことは、植物のペプチドホルモン遺伝子は進化の過程で保存されつつ、機能が多様化していることを示唆しています。
ゼニゴケのペプチドホルモンの機能を明らかにすれば、植物の普遍的な細胞間コミュニケーションが解明できる可能性があります。私たちは、ゼニゴケのペプチドホルモンと受容体のペアの解析を通じて、植物の陸上化に際して獲得したペプチドホルモンと受容体を介した細胞間コミュニケーションの多様性と保存性を、より深く理解することに挑戦します。