植物の根端分裂組織を維持するペプチドホルモンRGFの研究
生まれた時に大人とほぼ同じかたちをしている動物とは違い、植物は、種から発芽してから、葉を作り出し続け、茎を伸ばし続け、根を伸ばし続けることで、自身のかたちを変化させながら成長し続けることができます。
絶えず葉や根を作り出し続けることができる秘密は、植物の茎の先端(茎頂)と根の先端(根端)に、常に細胞分裂を活発化させ、成長に必要な細胞を供給し続ける仕組みを持っているからです。この細胞分裂が活発な領域を、それぞれ茎頂メリステム、根端メリステムといいます。
メリステムは植物の成長に不可欠であり、様々な経路によって調節・維持されています。そのひとつに、ペプチドホルモンをその受容体のペアを介した情報伝達経路があります。
2010年に、根端メリステムの活性維持を担うペプチドホルモンとしてRGF(Root meristem growth factor)が発見されました([link])。RGFはチロシン残基が硫酸化修飾を受けた15残基からなる硫酸化ペプチドホルモンで、シロイヌナズナ根端の静止中心付近で発現しています。正常なRGFを作り出すことができないシロイヌナズナは根をほとんど伸ばすことができませんが、外からRGFを投与することによって根の成長が劇的に回復することから、RGFは根の成長に必須なペプチドホルモンであることが示されています。
また2016年に、私たちはRGFを特異的に認識・結合する受容体を同定しました(Shinohara et al. [link])。根端メリステム周辺で発現する3つのRGF受容体がRGFを認識し、根端メリステム活性を維持します。RGF受容体の欠損株では根端メリステム活性が低下し、根が短くなってしまいます。
根端メリステムの活性は、根のマスターレギュレータである転写因子PLTの濃度勾配が決定しています。PLTタンパク質は、根端から基部側にかけて濃度勾配を形成して存在しています。PLTタンパク質の濃度が高い場所ではあまり細胞が分裂せず、中間の濃度になると細胞は盛んに分裂するようになり、濃度が低くなると分裂をやめて細胞は伸長します。このPLTタンパク質の濃度勾配が、根端メリステム活性を調節し、根の成長のバランスを保つはたらきをしています。
RGFはこのPLTタンパク質の濃度勾配の維持を行っています。RGF遺伝子やRGF受容体遺伝子が破壊されたシロイヌナズナの根では、PLTタンパク質の濃度勾配が維持できず、その結果根端メリステム活性が低下し、根が短くなってしまいます。
RGFは植物の根の正常な成長に欠かすことのできないペプチドホルモンです。しかし、RGFとその受容体を介した情報伝達が、どのようにPLTタンパク質の濃度勾配を維持しているのか、未だ不明な点が数多く残されています。私たちは、RGFの更なる機能解析を通じて、植物の根の成長メカニズムをより詳細に理解し、作物の成長促進へ応用することに挑戦します。