1.全国の干潟生態系の変遷と現状(比較水域論的な視点から)
質問1:門谷先生(北大)
(1)アサリの生態系の中での位置付けを明確にする必要がある。
(2)自分の経験では、瀬戸内海においては埋立て前にハマグリがたくさんいたところが、埋立てによる沖だし後はアサリが増えた。資源量は1桁ぐらい変化する。
(3)70年代にアサリの漁獲量がピークを示しているが、その前の状況はどうだったか明らかにする必要がある。
(4)アサリが減っただけで他のベントスは増えている可能性がある。
A.灘岡先生(東工大):
ご指摘点はもっともであるが,今回は水域間の比較ということで、切り口としてデータが揃っているアサリを代表とした。次の段階として、ローカルな生態系のやりとりなどを考えていきたい。
質問2:柿野先生(千葉県水産研究センター)
(1)埋立ての影響については、その量だけでなく質を議論する必要がある。アサリにとって重要な場所が埋立てられたことがアサリの減少に大きく影響しているのではないか。
(2)アサリの漁獲量と資源量の関係を整理しておく必要がある。漁獲高は、物流の発達とも関係する。
A:灘岡先生(東工大):
(1)の質の議論は重要な点と考えている.(2)の漁獲量と資源量の関係は常に議論される話である。
質問3:山崎さん(水産総合研究センター)
(1)陸域影響の長期的な蓄積などによって干潟の質が変化してきているのではないか?干潟があってもアサリがいない状況がある。
A:灘岡先生(東工大):
干潟が存在していても生態系が劣化する。有明海の緑川河口の覆砂の例においても、一時的に回復するが、3年ぐらい経つとまた悪くなるということが報告されている(熊本県立大学)。これは、底質環境がクリティカルであるということは確かであるが、なぜ悪くなるのかはわかっていない。複雑な問題である。
質問4:鳥羽さん(千葉県水産研究センター)
(1)アサリの増減を干潟の面積だけで議論すること自体に無理があるのではないか?
(2)生態学的研究からアサリの生物量の変化を見るべきである。
(3)湾域全体をハビタットとしてみて、干潟はその中の一つと見るべきである。
A.灘岡先生(東工大):
メタ個体群的な把握を湾域全体で把握しなくてはならない。しかし、論理的にはそうであっても、方法論となると今までは多くの制約があった。現在、浜口さんが研究されているような調査法が開発され、新しい可能性が出てきた。
質問5:工藤さん(海をつくる会)
(1)人工干潟でもアサリが自然発生している場所がある。そこを対象に研究してみてはどうか。
A.浜口さん(瀬戸内海区水産研究所):
その通りであり、良い事例として評価していきたいと考えている。
2.干潟生態系劣化の原因解明に向けての調査のあり方(浜口さん)
質問1:柴田さん(日本工営)
(1)アサリのDNA解析手法には何を使ったのか?
A.発現遺伝子解析はディファレンシャル、サブストラクション。それ以外にいくつかのステージにおいてEST解析でカタログを作っている。種の判別に関しては、種の判別にふさわしい遺伝子領域を読んでデータベースを作っている。
質問2:日向さん(国総研)
(1)アサリが減少する前の二枚貝の資源量はどうであったのか?
A.漁獲高統計はあるが、現存量統計はないので調べられないというのがネックとなっている。門谷先生がおっしゃる通り、昔は他の生物が多く、ある時期にアサリが増えたという可能性はある。これは想像の域を脱しないが、広島湾付近の貝塚ではハマグリやオキシジミが多く、アサリは4番目であったという事実がある。
質問3:二村さん(諫早湾緊急救済東京事務所)
(1)漁獲高の中に、海外から輸入されてそれぞれの海域で育ったものは含まれているのか?純粋にその海域で育ったものだけなのか?
A.おそらく含まれていると思う。
質問4:青山さん(市民の方)
(1)今と昔のアサリは違うのか?
A.実際に食べ比べて見ると、日本各地で味が違う。環境やエサの影響があるため、珪藻が多かった昔と鞭毛藻が増えた今は違うはずである。