『外洋変動(黒潮)が内湾環境に及ぼす影響』(日向氏)

発表要旨

以下の内容について、従来研究のレビューと問題点の整理を中心に研究紹介が行われた。

  1. 「外海起源の栄養塩について」:

    瀬戸内海では平均で外海由来の栄養塩が6割以上である(大阪湾は例外的に陸域起源が大きな海域である)。BG(バックグランド)法、応答法、その他(フラックス計測、モデル、外洋・季節変動考慮)による推定法が存在するが、既往の推定法に含まれる仮定は厳密には成立しない。具体的な問題点は以下の通り。


    [バックグラウンド法」:
    • 問題点1:淡水・栄養塩流入はゼロ.
    • 問題点2:栄養塩は水と一緒に動く.
    • 問題点3:内海におけるsinkとsourceがない.
    • 問題点4:陸域と外海の影響は線形の足し合わせ


    「応答法」:
    • 問題点1:定常を仮定している点.
    • 問題点2:陸域と外海の影響は線形の足し合わせ

    外洋の流動や水槐の影響範囲は時間的に変動しており、正確な定量的議論を行なうためには、シミュレーション等によりそれらの影響を適切に評価するべきである。

  2. 「本州南岸亜表層における水温第二極小について」:

    8月に発生し、空間分布は非一様である。相模湾における夏季ブルーミング、サクラエビ幼生の生育、等々に影響を有するとの指摘がなされた。

  3. 「イベント現象について(沿岸水位上昇KWWI)」

    黒潮の間欠的な接岸に伴って、内湾から外海への質量フラックスが増加することが多い。浦賀水道海底高濁度層発生にも黒潮の接岸が寄与している可能性がある。また,夏季には外海への貧酸素水槐の流出をもたらす。

質疑応答

No質問回答
1 長期的に現象を捉えるのならば応答法、BG法でも十分妥当なのではないか? 外海と内湾のインタラクションがあるので、線形の仮定には問題がある。また、季節変動や黒潮の流動のサイクルが卓越するので、例え、タイムスケールを長くとっても両手法の仮定が適切であるとは言いがたい。したがって、外洋の影響の定量評価には、種々の変動を考慮したシミュレーションを行うのが最も適切だと思われる。
2 20年前から現在にかけて外洋に由来する栄養塩の寄与の推定値は正確になってきているとの印象を受けているが? 詳細は分からない.
3 ここ20年ぐらいで外洋の栄養塩は単調に上昇しているのではないか? 必ずしも単調に上昇しているわけではない。
4 東京湾、大阪湾における外洋栄養塩の寄与は? 非常に小さいと思われる。
5 フラックスの測定による精度の検証が必要だと思われるが? 栄養塩の分析には多大な労力が必要であり、部分的には水温を栄養塩との相関から栄養塩濃度が推定されている。このようにフラックスの観測精度は必ずしも十分ではないのが現状である。
6 外海の栄養塩の起源は? 黒潮上流域や瀬戸内海自身からの起源も考えられるが、詳細は今のところ不明。なお、従来、「外洋起源」という表現が用いられていたが、実際の栄養塩の起源が明確でないため、最近では外海由来(内湾の外)という表現に変わってきている。
7 TN, TPでの議論をしているが、粒状有機物の影響は? よく分からない。TN、TPを用いて取りまとめを行ったのは元々の定義に従ったことが理由である。TN、TPを用いると、栄養塩の存在形態の変換過程を考慮しなくてすむので、無機態の栄養塩濃度ではなく、TN,TPが用いられていると考えられる。



現状把握




問題解決の戦略・戦術の提言

外洋影響を今後どのようにアプローチしていかないといけないのか?→瀬戸内海を対象とした場合、少なくとも季節変動と黒潮の離接岸の影響を加味した検討が必要である。  また、固定地点での栄養塩濃度の連続モニタリングが必要である。更に、栄養塩の推定手法の確立も必要である。第二極小の問題と外海起源栄養塩との関係は今後調べる必要があると考えている。