発表要旨
人間活動によって引き起こされる熱環境の変化に着目し、東京湾沿岸における河川域や沿岸域の水温上昇の実態が紹介された。主要な結果は以下の通り。
- 東京湾では、春先の赤潮の発生が早期化していることが指摘されているが、東京湾流入河川の人為的な水温上昇がその原因ではないかとの指摘がなされた。
- 調査を実施した河川の水温がここ40年で4度上昇していることが示された。
- 冬季は都市部で水温上昇傾向にあることが示された(夏季には顕著な変化なし)。
- 東京湾では神奈川県沖において上昇傾向が強い(特に冬場の上昇傾向が大きい)。
- 東京湾の水温の収支を調べてみると、局所的に見る限りでは、河川からの熱の供給よりも海面熱フラックスの影響が大きいとの結果が得られた。ただし、正確な見積もりは今後の課題である。
- 河川のみに着目すると、水温の上昇傾向が特に強い領域は、下水処理水が排水される場所と一致している。
- 流域下水道の存在により、下水処理水が集約的に河口付近で放流されるため、江戸川の上〜中流域では水温の上昇傾向は比較的小さい。
- 小河内ダムの放流方法(放流口位置)を変えたことにより、多摩川上流域で水温低下傾向が認められた。
- 水温は水生生物に影響を与えなおかつトレーサとしても使える可能性があることが指摘された。
- 冬季において、下水の熱は河川水の熱収支により大きな影響を与えながら、東京湾まで到達することが確認された。
- 人工的な排熱が河川流出域の局所的な環境に影響を及ぼしている可能性は大きく、このことはシミュレーションによって確認されている。
- 都市そのものの気温上昇も河川水温の上昇に寄与しており、その影響は下水による影響の30%程度に相当した。
- 水温場の変化が塩分場にも影響を及ぼすことがシミュレーションにて確認された。
- 鶴見川では低水流量の6割、多摩川では低水流量の8割と、河川水中における下水処理水の寄与が大きい。
質疑応答
No | 質問 | 回答 |
1 |
熱フラックスの算定値の結果において大気側への海面熱フラックスの値がここ最近減少傾向にある理由は? |
海上での観測値を用いているわけではないので、必ずしも厳密な結果だとは言えないが、計算上は日射量の増加によって大気側への海面熱フラックスが減少するとの結果が得られている。 |
2 |
熱負荷と流量との関係性は議論しているか?また4月の熱負荷の増加は流量の増加で説明できるのか? |
河口通過熱量が4月に上昇するのは、降水量増に伴う流量増と、河川水温と湾奥部の海水面温度の差の増大の双方の影響であり、流量増の影響が相対的に大きい。 |
現状把握
- 現象の本質はどこにあるのか。
- 東京湾をはじめとする都市域の沿岸や河口域の水温が、下水処理場からの排水によって冬季上昇傾向にあることが示された。
- 現状の環境管理及び環境アセスの方法論・内容とのギャップはどれほどのものか。
- 沿岸域への人工的な熱負荷が生態系へ与える影響は良く分かっていない。またその影響範囲がどの程度なのかも不明である。
問題解決の戦略・戦術の提言
沿岸域への人工的な熱負荷が物理場や生態系へ与える影響について、数値的な感度解析を行う必要があるのではとの指摘がなされた。水温の変化による生物相の変化、水質浄化機能を有することが指摘されている干潟生態系への影響、河口域の生態環境、を考慮する必要性が指摘された。
なお、環境への悪影響(汚染)ということだけではなくて,浄化機能の増加といったプラスの効果の観点からも熱の影響を捉える必要がある。