河口域の栄養塩動態(河口沖への流出フラックス)は季節や朔望周期などといった様々なタイムスケールで変動しているが、本発表では荒川感潮域を対象に朔望周期の影響に着目した研究成果が紹介された。
河口から海域への栄養塩フラックスは,朔望周期で変動し,小潮時に大きく,大潮時に小さい.大潮時にはリンが河道内に蓄積され、小潮時にはリンが排出される.これらの時間変動パターンがシミュレーションより確認された。
クロロフィルaの鉛直循環パターンは、潮差、風、流量で変動すると推測されるが、「上流からの流入栄養塩→植物プランクトンによる取り込み→植物プランクトンの沈降→下層で上流側に輸送→上流側で表層に再加入して再生産」、という循環サイクルが存在し,その結果,植物プランクトンは河口域でブルームを形成する可能性が指摘された。
No | 質問 | 回答 |
1 | 感潮域と非感潮域とで栄養塩フラックスに差はあるか? | 平水時はTP、TNは不変。無機の栄養塩だと、感潮域ではそのかなりの部分が植物プランクトンに取り込まれる。ただし、その議論は植物プランクトンの絶対量での議論なので、定量的な議論を完結するにはフラックスでの議論が必要だと思われる。・ 小潮時に形成される、比較的塩分が濃く、鉛直循環流により流向が逆転する薄い層内に植物プランクトンがうまくトラップされたときに、赤潮が発生すると推測される。 |
2 | フロキュレーションはモデル化しているか? | していない。 |
3 | DONの負荷は粒状有機態窒素と同程度なのが一般的だと思っていたが、それとは異なる結果が得られているように見受けられる。DONは栄養塩の構成の中に含まれているか? | 提示した結果は観測結果でありDONも考慮されている。しかしながら、今回提示した結果が一般的な値を示しているのかは不明である。 |
4 | 「流入した栄養塩→植物プランクトン→沈降」というプロセスがあるのではないか? | 定量的な議論はまだできていない。 |
5 | 感潮域の水質変換過程が東京湾の貧酸素水塊の予測にどの程度の影響を有しているのか? | 長期スケールでは一般的なモデル化(感潮域での水質変換過程を考慮せず、非感潮域で得られた負荷のフラックスを河口近傍にて与える)でも問題ないとの印象がある。局所的、短期的な現象を対象にするならば感潮域での現象を考慮する必要がある。 |
6 | 荒川のベントス、魚類、植生の状況は?その影響は考慮しなくてよいのか? | 荒川の河口はヘドロになっていると思う.河口は元々稚魚の棲みかだったが,現在は貧酸素化の影響によって棲み難い状況になっている。また、ヨシ原のような植生はそれほどない |
フロック化により河床に沈積した縣濁態物質がフラッシュされることについては、これまで多くの研究成果が存在するが、そのような現象が内湾へ与える影響は不明である。また、今回対象としたような比較的流量が少ない場合における負荷のフラックスの動態については(少なくとも日本では)研究例は全く見られない。更に、SSと栄養塩との関係を議論した研究は多いが、栄養塩と植物プランクトンの河口域でのインタラクションを対象にした研究は存在しない。河口での水質変換過程(物質循環)については定量的な意味で不明点が多い。
沿岸域の水質シミュレーションにおいて、便宜上、負荷のフラックスが求められる実測値存在地点よりも下流側において(より海に近い部分)河川の負荷が与えられることが多く、河口域での水質変換過程(物質循環)は無視されるのが一般である。
沿岸海域への負荷の供給は、平水時と出水時でその特性が異なると考えられ、各フェイズの特性を定量的に明確にすべきである。特に出水時の観測データを得ることは難しいため、年間を通じて時間分解能の高い集中観測を実施することが望ましい(安達)。