経済学を学ぼう お勧め図書1
■■■現代資本主義を読み解く
1 アントニオ・ネグリ/マイケル・ハート 『帝国』 〜グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性〜
水島一憲他訳以文社
2003年写真右側は『マルチチュード 〜<帝国>時代の戦争と民主主義〜』 上・下(NHKブックス)
20世紀の終わりに執筆され、21世紀に入って世界各国で翻訳され、ヨーロッパ、米国、日本で政治経済学の分野で大ヒットした書籍である。今も読まれている。
まるでネグリを読まなければ経済学徒としてはモグリと 言われそうな勢いで、未だに論壇を席巻している。20世紀最後の10年は、情報ネットワークが急速に発展する中で、湾岸戦争、ソ連邦の消滅、ユーゴ内戦、そしてコソボ紛争と大変動の時代であった。これらを見据えながら「グローバリズム」を旧来の帝国主義とは違った新たな「帝国」概念で捉え返し、ネットワーク化した権力に迫っている。
日本の経済学者は、原理論の細かい論点を緻密に展開するのは得意だが、このようなスケールの本はなかなか書けない。
米国でも商業ジャーナリズムに乗って良く売れたそうである。もっとも、米国人の「勘違いでは?」と意地悪な見方をする人もいるが。
日本語版は、以文社より580頁5600円で出版されている。部厚くて高価なのに圧倒されそうになるが、5600円の価値があるかどうかは別にして、読む価値はある書である。第1部「現在性の政治的構成」
第2部「主権の移行」
第3部「生産の移行」
第4部「<帝国>の衰退と没落」の4部構成となっている。
内容は読んで頂くことにして、ここでは初めてネグリに接する人のために、「帝国」と「マルチチュード」に関してのみ簡単に触れておく。
ここでいう「帝国」とは、想像されがちな米国の一国資本主義や特定の国民国家による主権やその拡張ではなく、いわば巨大な資本制システムを指している。米国といえどもその一部にしかすぎないわけである。
もう一つ、マルチチュードとはもともと「多数」とか「民衆」を意味する言葉といわれるが、ネグリやハートはこれを<帝国>に対抗する存在を意味するものとして、その位置づけの変更を行っている。
古典的な階級対立、工業労働者(プロレタリアート)に対して、多種・多様な変革主体を意味するものとして対置しているのである。この二つのキーワードを押さえて、あとは「力づく」でともかく読み通すことになるが、 どうしてもこの厚さについていけそうにない場合は、右側の『マルチチュード 〜<帝国>時代の戦争と民主主義〜』 上・下(NHKブックス)を選択することになるが、こちらは、個人的には迫力不足の感が否めない。
これに関連する書籍も多数出版されており、興味を持たれたら、大型書店の「ポスト構造主義」の書棚を 見て回るのもいいだろう。