経済学を学ぼう お勧め図書3
■■■現代資本主義を読み解く
1 大内力
『国家独占資本主義』
新版(左)
こぶし書房
2007年旧版(右)
東京大学出版会
1970年
戦後日本経済学の一つの到達点
大内教授の「国家独占資本主義」が、こぶし書房の「こぶし文庫」に加えられ昨年新装刊された。旧版が東大出版会から刊行されたのが1970年であるから30数年ぶりである。グローバル資本主義、情報資本主義など現下の経済をどう捉えるかについては様々な議論が提起されているが、それらを学ぶ際の基本的枠組みを提供する書として、本書の新装刊の意義は高い。
はじめて経済学を接する人のために簡単に触れておくと、大内教授は日本を代表する宇野経済学の正統に属する研究者で、その研究分野は広く、経済原論の領域から現状分析まで多岐にわたっている。国会図書館で著者 を大内力で検索すると翻訳、編著を含めると150冊以上ヒットする。中でも「国家独占資本主義」は教授の代表作の一つである。
宇野経済学にあっては、資本主義を3つの段階(重商主義・自由主義・帝国主義)に区分しながら、段階論は第一次世界大戦までであり、それ以降は現状分析の分野とされているが、その理論的分析は、本書が出るまでは宇野先生自身の資本主義の組織化に関する論文はあるにしても、少なかったのが実情である。
ただ、第一次世界大戦後を段階論の対象から外したことについては、多くの議論があるところで、実は大内教授のこの書も、第1次大戦後も段階論としては帝国主義段階に含まれるとしたうえで、この段階と現状分析の「橋渡し」として、「仮説抽出」した国家独占資本主義の既定を用いるという方法を採っているのである。
この点は専門的になるので、これから経済学を学ぶ人はあまり深く考えず、現代資本主義の変貌を学ぶ基本書として素直に読まれることをお勧めする。
さて、国家独占資本主義とは、国家が経済過程に何らかの形で介入する現代資本主義のことであるが、大内教授によれば、「金本位制の終極的な放棄=管理通貨制度のうえに立って、主として通貨の側面からおこなわれる経済への介入、あるいは広義のフィスカル・ポリシーを媒介とした経済の国家管理こそが、国家独占資本主義に固有の国家活動であり、したがってその本質をしめすものである」(こぶし版 182頁)とされる。
そして国家独占資本主義における国家の本質的な機能とは、管理通貨制度のもとで、実質賃金の上昇を抑え、恐慌からの回復または予防しうる体制の整備とされている。因みに大内教授はべつのところで「労働力の商品化という問題を中心に据えて国家独占資本主義の問題を処理したい」と述べている。異論も多いが、先ずは読んで理解することが肝心。
読むにあたっては、個人差はあると思うが、巻末付録の「国家独占資本主義論ノート」から入る方がわかりやすいように思う。
それほどの分量ではないので、是非チャレンジしてほしい。
なお大内教授は書き下ろしで「経済学大系」全8巻 (一部未刊)を東大出版会より出版している。方法論(1巻)から経済原論(2巻、3巻)、帝国主義論(4巻、5巻)、世界経済論(6巻)、日本経済論(7巻、8巻)と一人で書き下ろすのだからよほどの博覧強記でかつ自信がないと出来るものではない。
ただ残念なことに最後の8巻は未刊のままで、教授の年齢を考えると厳しい状況であるが、全巻完結に期待したい。
なお、大内力、 戸原四郎、 大内秀明共著『経済学概論』(東大出版会)はおすすめの経済学入門書である。新本だと3200円だが、古本では安く入手可能なので 、こちらもチャレンジして欲しい。