吉岡グループ

「冬生一年生雑草の生活環進化に関する遺伝的プログラム」を解明するために、環境に応答して種子発芽と開花のタイミングを制御する生態、生理、分子機構について研究を行っている。また、これらの研究で得られた種子科学に関する知見を環境保全型雑草管理や植物機能性向上など農業分野に応用することを目指している。


研究テーマ
・水湿生植物のアブシジン酸不活性化経路選択による嫌気環境適応機構の解明研究
・冬生一年草の生活史成立鍵因子である種子春化遺伝子の解明研究
・北陸での種子死滅現象から着想した雑草シードバンクを低減する生態システムの解明研究
・新カテゴリー農薬創製を目指す種子死滅誘導性微生物生産物質の探索
・越境大気汚染による酸性沈着が土壌pH緩衝力と生物相の将来変化に及ぼす影響の解析
・世界に誇るアゼオトギリ丸岡個体群の復元保全に関する地域共働研究

研究材料: シロイヌナズナ、コハコベ、アゼオトギリ、希少植物、絶滅危惧種
Key words: 雑草、種子発芽、冬性一年草生活史、アブシシン酸、種子春化


水口グループ
農業活動が周辺の生態系へ与える影響をきちんと評価することで、安全・安心かつ効率的な農業を実現させることが私の夢です。その夢の実現の第一歩として、 「雑草の生き様を理解する研究」に取り組んでいます。というのも、雑草は人間の働きかけによって、すごくはびこってしまう場合もあれば、そんなでもない場合もあります。雑草の生き様をきちんと理解することで私たちはもっと上手に雑草を防除したり利用したりすることができるはずです。どのような管理をすると どのような雑草種が増えるのか?その雑草種の遺伝的構成はどのように変化するのか?などに着目して研究を進めています。


研究テーマ
・“冬”が夏雑草の生活史特性に与える影響の解析
・福井県在来ナス品種の栽培方法の確立と系譜探索

研究材料: ススキ、ナス、チガヤ、カエル
Key words:農業生態系、雑草管理、遺伝子組換え作物、生物多様性、生態リスク


塩野グループ

私たちのグループでは、環境ストレスに対する植物の適応機構について研究しています。

植物に不可欠な「水」をキーワードに、根が環境に適応するためにとる生理学的応答を、組織化学的、分子遺伝学的手法を使って理解しようと試みています。研究を通じて得られた知見を研究室レベルにとどめずに実用の場に応用することを目指しています。


研究材料:イネ、オオムギ、ブラキポディウム
Key words:環境ストレス、適応機構、湿害、耐湿性、根の酸素通気、カスパリー線、スベリン、 リグニン、低酸素ストレス、通気組織、 酸素漏出バリア(ROLバリア、Barrier to Radial Oxygen Loss)


1. 作物への耐湿性の付与を目指した根の酸素通気制御機構の解明図1.水田転換畑で湿害をうけるオオムギ
もともとイネを栽培している水田転換畑は土壌の排水性が悪く、長雨などによって水がたまりやすい。水田転換畑で栽培されているオオムギ、コムギ、ダイズのほとんどが湿害を被り、品質低下や生産性が低下してしまう。写真は福井県内の水田転換畑で栽培されているオオムギ。苗立ちができず、土壌がむき出しになっている。1月ごろ。



現在、日本では水田転換畑でイネ以外の作物を栽培する、転作が推し進められており、オオムギ、ダイズ、コムギなど畑作物のほとんどが水田転換畑で栽培されています(六条オオムギ: 83%, ダイズ: 92%, コムギ: 94%)*1。

水田土壌は排水性が悪く、長雨により水が湛水すると土壌が過湿状態になりやすい環境です(図1)。植物の成育には水は不可欠なものですが、過湿状態になった土壌では酸素濃度が低下して根の呼吸が妨げられます(低酸素状態では、酸素のある状態の数%のエネルギーしか生産できない)。そのため、耐湿性の低い作物(オオムギ、ダイズ、コムギなど)は生育阻害をうけます(このことを湿害といいます)。  

こういった、「オオムギなどの耐湿性の低い作物を水田転換畑でも順調に育つようにする」というのが私たちの最終目標です。そのために、耐湿性の強い植物がどのように適応しているのかを研究しています。私たちは耐湿性の強い植物の代表として、もともと水田で栽培されているイネや水田雑草を材料に選びました。特にイネはゲノムプロジェクトを完了しており、分子遺伝学研究を進める材料や生理学的知見が充実しています。そこで、私たちはイネを耐湿性研究のモデル植物として据え直し、植物が過湿状態の土壌にどのように適応するのか?生理学的、分子遺伝学的に研究を進めることにしました。  

イネをはじめ多くの湿地に生育する植物は、先に述べた土壌中の酸素不足を補うために、茎や根に酸素を運ぶ管(通気組織)をつくります(図2)。さらに、根の基部からの酸素漏出を防ぐことで、呼吸活性の高い根端まで効率的に酸素を届けることで適応しています(図3, ROLバリア(酸素漏出バリア、Barrier to Radial Oxygen Loss)。私たちの研究室では世界でも数カ所でしかつかえない、根からの放射的酸素放出量を直接的に定量できる酸素電極を使うことができます。この酸素電極を使って、イネのROLバリアの形成プロセスが通気組織の発達プロセスとは異なることを明らかにしました(Shiono et al. AoB. 2010)。それから、これまではっきりとしなかったイネのROLバリアを構成する成分について分子生物学的な観点から説明することを試みました。具体的には、ROLバリアを形成している組織だけをレーザーマイクロダイセクションで集め、マイクロアレイによって網羅的に発現を解析しました。発現解析の結果、ROLバリア形成時にリグニンよりもスベリンの生合成に関わる遺伝子が数多く働くことが分かりました(Shiono et al. JXB. 2014)。続いて、ROLバリア形成時に遺伝子発現が上昇した遺伝子の機能解析をすることにしました。先の報告で同定した遺伝子の一つ、RCN1/OsABCG5というABCトランスポーターの遺伝子の変異体である、rcn1変異体を水田で育てるとその根が異常に短くなることが分かりました。詳しく調べてみるとrcn1変異体はROLバリアの構成成分と言われているスベリンが根の外側に形成できず、根の外側のアポプラスト輸送バリアの機能が失われていることが分かりました(Shiono et al. Plant J. 2014)。rcn1変異体は根の外側のアポプラスト輸送バリアを形成できないことが証明された初めての変異体です。現在、rcn1変異体が水田のように水が多い環境に適応できない理由について調べることで、イネが水田環境に適応できる理由について探っています。  


私たちの最終目標は「オオムギなどの耐湿性の低い作物を水田転換畑でも順調に育つようにする」ということです。そこで、耐湿性の高いイネのROLバリア形成機構を理解する傍ら、畑作物の耐湿性を高めるために重要な因子、遺伝子を耐湿性の低い植物と比較することで明らかにしようと試みています。耐湿性の低い植物として材料としているのは同じイネ科で湿害が問題となっているオオムギ、加えてイネ科植物の新しいモデル植物であるブラキポディウム(Brachypodium distachyon)です。特にブラキポディウムは新しい実験材料であるために、耐湿性の評価がなされていませんでした。そこで、耐湿性の強化の研究に先駆け、私たちはブラキポディウム(Bd21)が他の畑作物同様に耐湿性が低く、通気組織やROLバリアの形成ができないということを確認しました(Shiono & Yamada. Plant Root. 2014)。これらの材料を利用して畑作物への耐湿性の付与を目指しています。


2. その他のテーマ
・植物ホルモン動態のイメージング技術の開発
・作物の湿害抵抗性を高めるための栽培技術の開発
・乾燥ストレス、塩ストレスへの順化に対して根のスベリンのバリアがどのように寄与するのか?
・湿生植物や水生植物がもつ湿地環境に適応する未知の戦略に関する研究
 
図2. 通気組織
通気組織は地上部と根をつなぐ細胞間隙である。酸素は通気組織の中を濃度勾配に応じた拡散により移動する。植物種によって全く形成しないもの(Aミナトカモジグサ, Brachypodium distachyon)、土壌が過湿状態になると誘導的に形成するもの(B オオムギ, Hordium vulgare)、過湿状態にならなくても排水性の良い土壌状態で恒常的に形成するものがある(イネ, Oryza sativa)。Bars = 100 μm. *2
図3. ROLバリアの機能
過湿状態の土壌では,酸素は通気組織を通じて地上部から根端まで輸送される( 黒矢印) .酸素は拡散によって通気組織内を移動するため,根の基部において酸素は根端方向に向かうだけでなく,放射状酸素放出(radial oxygen loss, ROL として根から放出される(緑矢印).非湿生植物は根の基部から放射状酸素放出として失われる酸素が多いために,根端まで供給できる酸素量が少なくなる(A) .湿生植物(wetland plants)は根の基部側に放射状酸素放出を抑制するはたらきをもつ「ROL バリア(barrier to ROL) 」を形成することで根端までの酸素の長距離輸送を可能にしている(B, 赤色線) .ROL バリアは植物の湿害抵抗性を高める3つの機能を果たすと考えられている(紫色) .まず,根端に届けられた酸素は活性の高い細胞の呼吸に利用される(a) .さらに,根端から酸素を放出することで還元化した土壌を酸化する.これによって,有毒物質を無毒化し,根端の保護を可能にする(b) .一方,根の基部側では,ROL バリアの主要成分である疎水性の極長鎖脂肪酸であるスベリンが外皮において,酸素の流出を妨げるだけでなく,有毒物質の根への流入も防ぐと考えられている(c) .*2

引用元
*1: 全栽培面積に占める水田転換畑の使用率。 農林水産統計(2009,2010)のデータから北海道の栽培面積を除いて算出。
*2: 塩野克宏. ROLバリア: 湿生植物の過湿状態の土壌への適応を支えるしくみ. 根の研究 25(3): 47-62(2016).